職人夫婦が築いた「町のパン屋」の新しい形 個人店だからできることがいっぱいある
複数ある最寄り駅から徒歩15分。言い換えれば、どこの駅からもさほど近くないのに、パンマニアからひそかに注目を浴びているパン屋がある。北新宿の小滝橋交差点そばにたたずむそのパン屋は、どことなくフランスのを雑貨店思わせるようなしゃれた外観だ。
昨年12月にオープンした「ticopain(ティコパン)」。周囲にパン屋がないこともあって、開店から1年足らずで、パン・ドゥミ(食パン)やバゲットが売り切れる人気店となった。食パンはともかく、バゲットは意外に売れ残りが多い商品だ。おしゃれな店という印象を抱かせ、シンプルな分だけ作るのが難しい、という作りがいのあるアイテムだが、買う人は多くない。
実はパン屋で食事用パンを買う人はまだ少数派で、バゲットはクリスマスやホームパーティなど特別な日用という人も多い。パン屋を取材していると、バゲットが売れ残るという声はよく聞く。
パン職人夫婦の多彩な経歴
ティコパンのバゲットは、確かに香りがよく、さくさくとしたキレのいい味わい。食事のお供にいかにも合いそうだ。これを仕込んでいるのは、店主の中島直樹氏と同氏の妻、佐知子氏。自らの勘でこね具合や発酵の具合を確かめ、手ごねで仕込むという。
ティコパンの人気の理由を探っていくと、いくつか面白い点に気がつく。1つは、ティコパンでは、夫婦2人がパン職人であるという点だ。町のパン屋の場合、夫がパン作りを担当し、妻がレジや店頭管理を担うパターンが少なくないので、これは珍しい。店では、直樹氏が経営とパンの成形、オーブンで焼く工程などを担当し、佐知子氏は粉と材料の味のチェック、パン種の仕込み担当と、それぞれが得意なことに専念している。直樹氏によれば、「夫婦が両方とも製造できるのはアドバンテージ」である。
夫婦の経歴も多彩だ。佐知子氏は、フランス料理店「シェ・リュイ」のパン部門でキャリアをスタートし、パリの「ル・グルニエ・ア・パン」で修業を積んだ。帰国後、同店のアトレ恵比寿店のオープニングシェフなどを務めた。
一方、直樹氏はシェ・リュイ大島店でチーフを務めた後、佐知子氏と結婚した。31歳で、駅ナカや百貨店の飲食店を経営するトリコロールのパン部門でパン作りや製造管理などを経験後、2015年に退職。大量生産のパン作りを経験した直樹氏は、「それぞれの個人能力を活かせる高性能高機能な厨房を、家内と作れたらいいな」と考えており、製パンコンサルタントを経て佐知子氏とティコパンを開いた。
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