職人夫婦が築いた「町のパン屋」の新しい形

個人店だからできることがいっぱいある

そんな職人気質の2人が営むティコパンは、可能なかぎり「自家製」にこだわっている。通常、パン屋は菓子パンや総菜パンの中に入れるクリームなどを、専門メーカーから購入している。パン作りとは別の技術を必要とするうえ、手間もかかるからだ。カスタードクリームなど厳しい衛生管理を求められる製品の安全性も担保できる。

ただ、最近はカスタードクリームなどの自家製をうたう店が増えている。材料の手作りはトレンドともいえるが、ティコパンの場合、自家製するのはクリームだけにとどまらない。

パン屋らしい仕事をするために乾燥機を導入

厨房の奥にある食品乾燥機。この日はオニオンを乾燥させていた(撮影:大澤 誠)

厨房の奥に、70万円したというその「秘密兵器」は置いてある。ほかのパン屋には、まずないと思われる食品乾燥機である。同店では、この乾燥機を使って、ドライフルーツやベジタブルを作っている。その理由は2つ。1つは、9.4坪しかない店で収納スペースをたくさん取ることは難しいが、「乾燥機を使うと、野菜や果物のサイズも3分の1になり、賞味期限がほぼないので、管理しやすい」(直樹氏)から。

そしてもう1つは、彩りのためだ。飲食店にとって、いまやインスタ映えの追求は集客のため避けられない傾向があるが、「そのためによくやるのが、デニッシュに生の果物を飾る、という菓子屋のまねごとのようなこと。でも、生のものを使うと、朝はきれいでも夕方にはベチャッとなってしまう。パン屋らしい仕事を、と考えたときに、ドライフルーツを彩りのよいものにすればと考えました」と直樹氏は語る。

しかも、生の材料を使う場合は、「発酵の合間にオンタイムでピシッピシッとやらなければならない」が、乾燥させるための下ごしらえは2、3日分まとめてできる。機械をセットしておけば夜の間に乾燥機が仕事し、翌日には出来上がる。「思ったほどきつくないですよ」と直樹氏。

しかし、すべて手作りでなければ、とこだわっているわけではない。外国産など生で手に入らない果物もあるし、「濃厚さは海外のもののほうがいい」。特性に応じて使い分けているというわけだ。常時作っているのは、ドライオニオンとドライトマトの2種類。ほかにキウイやイチゴ、レモン、オレンジ、アプリコット、プラム、イチジクを採用してきた。

ドライオニオンを使ったオニオンブレッド(650円)(撮影:大澤 誠)

ドライオニオンは、オニオンブレッドの材料になるほか、ドライトマトやドライキノコも加えたタルト・フランベに使う。「まだ、通年はできていないので、どの果物・野菜をパンにできて何ができないのか、見極めてノウハウを蓄積していきたい」(直樹氏)。

タルトフランベ(250円)(撮影:大澤 誠)
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