職人夫婦が築いた「町のパン屋」の新しい形 個人店だからできることがいっぱいある
ほかにも、アーモンドの粉を使ったクリーム、クレーム・ダマンドは、シェ・リュイなどでは、アーモンドプードルという粉末の既製品を使っていたが、現在は豆のまま購入し、ひいて使う。「ひきたての香りがいいのと、粗びきで粒感が残るようにすると、食感が面白い」からだ。
どうやら直樹氏、手作りの可能性を追求すること自体が面白く、苦にならないようだ。それはあえて力仕事の手ごねでバゲットのパン種を仕込む佐知子氏にも共通するのだろう。何しろ使っている小麦粉は、すべて扱いが難しい国産小麦粉だ。
早く帰りたいから効率性を追求
外国産小麦の小麦粉を使っていた会社員時代、2人はそれぞれ肌荒れや鼻炎に悩まされていた。それが、店を持ち、国産小麦の小麦粉を使い出してから「体調がめっきり改善した」という。しかし、製粉メーカーが目的に合わせて製造した外国産小麦が原料の小麦粉に比べると、国産小麦の小麦粉は性質が不安定という欠点を持つ。
北海道産と熊本産の小麦粉で仕込む種は、最初のうちは水をよく吸い、「これどうなっちゃうんだろう」と思うが、一晩寝かせて成形するうち、「ちゃんとした生地になる」。「その変化が楽しい」と直樹氏が語るのは、確かな技術があるからだ。そして、国産小麦を使うもう1つの理由は、「味わいも面白いこと」である。
ティコパンが面白い理由はさらにもう1つある。それは、直樹氏の卓越したマネジメント力だ。過去のマネジメントやコンサルティングの経験があるからともいえるが、そもそも効率性を徹底的に重視するのは、「日々の仕事が大変で、ただ頑張っていた」時代から、早く帰るために表計算ソフトなどを使って製造管理をしたいと考えていたからだ。早く帰りたいのは、「もっとパンの勉強をしたいから」でもある。
たとえば、小麦粉の量はざっくり6キログラム、7キログラムと計算するが、実際に仕込む量は7.2キログラムなどの半端な数字も含む。そこまでの細かい原価計算を全部の材料に関して「電卓を使ってやるのはしんどい」。今では、厨房にタブレット式のパソコンを置き、すべての商品の原価管理を行っている。
直樹氏は、店の立地選びでも独自の経営センスを発揮した。これまで、直樹氏が働いてきた駅前の好立地の店では、家賃が売り上げの16%もかかっていた。しかし、最寄り駅から遠いティコパンでは、約5%と10%以上も負担が少ない。その「余った分」を材料などの原価に投入できるというメリットがある。
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