スタバが鎌倉から始めた「街に合う店」の正体 景観を損ねず、歴史や文化を尊重して設計

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もうひとつ興味深いのは、米国企業にありがちな「本国のやり方をそのまま貫く」のではなく、日本の生活者を理解しようとする柔軟性があること。実は、ここが大きなポイントだ。

たとえば日本市場からの撤退がうわさされる、世界最大級の小売業であるウォルマート(本社はアメリカ)が西友を買収した際、西友の売り場商品には「Rollback」(ロールバック=長期間の安売り)という文字が並び、米国流の販売手法にこだわった。だが日本の、特に都市部に住む人の自宅は総じて狭い。アメリカほどクルマで来店してまとめ買いする文化も少なく、長期間の安売りなら、その日のうちに買おうとはしない。

もちろん、スタバの看板商品「フラペチーノ」のように新たな提案も必要だが、米国系企業が日本市場に学び、溶け込んだ結果の成功例はある。アイスクリームのハーゲンダッツは「グリーンティー(抹茶味)」が、マクドナルドは「月見バーガー」が大ヒットとなった。

建築でも「やり残したこと」がある

スターバックスの店づくりの話に戻ろう。1店ごとに店を開発するのは、手間もコストもかかるが、設計をできるだけ社内で行うことで費用を抑えている。「どの什器や調度品にこだわるか、などの部分的なこだわりでもほかの店との違いは生み出せる」という。

さらに「リージョナル ランドマーク ストア」のような、こだわりの店には、別のサイフもある。社内で通称「ロマンス予算」と呼ばれる予算だ。近年は一定の枠内で、この予算を使うことができる。

「現在の店舗設計部の業務の半分は、『リモデル』と呼ぶ既存店の見直しです。店内でモバイル機器を使うお客さまが増えるなど、お店での過ごし方が変わってきました。それらも踏まえて、この店ではどんなリモデルをするかを、つねに考えています」(髙島さん)

「リージョナル ランドマーク ストア」の残された課題については、こう語る。

「地元産の木材を使うなど、地域の特産品を使う取り組みも進めたい。実はいま、東京都港区の『みなとモデル』にも参画しています。森林のない港区が、国産材の活用を推進することで、林業をどう再生させるかという取り組みです」(同)

同社が掲げる「地域と人をつなぐ」や「時間と人をつなぐ」にも結び付く活動だ。10月3日、一連の活動が評価されて「リージョナル ランドマーク ストア」は、2018年グッドデザイン賞「グッドデザイン・ベスト100」に選出された。

スターバックスが日本で事業を開始して22年になる。店舗数も売上高でも国内No.1の存在となったからこそ、求められるのは「企業の社会的責任」だろう。同社の店舗づくりが、「売り手よし、買い手よし、世間よし」になっていくのかも見守りたい。

高井 尚之 経済ジャーナリスト、経営コンサルタント

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たかい なおゆき / Naoyuki Takai

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)がある。

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