スタバが鎌倉から始めた「街に合う店」の正体 景観を損ねず、歴史や文化を尊重して設計

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実は、同社の店づくりは社員デザイナーが1店ずつデザインするのが特徴だ。設計もできるだけ外部に委託せず、社内で担う。2001年に入社した髙島さんにとって、「鎌倉御成町店」は、インハウスのデザイナーとしてのやりがいを与えてくれた案件だったという。

店舗設計部部長の髙島真由さん(筆者撮影)

「横山先生のご遺族の理解もあり、『庭を活用して、広く一般の人に親しまれる空間にしたい』など要望も明快でした。お孫さんが若手建築デザイナーだったのも幸いし、彼女とその友人とともに、景観に配慮した建築やインテリアを実現しました。まずは地元に愛される店にしたい。近くに住む年配男性が読書をしたくなる店をめざしたのです」

歴史的な場所に出店する場合、自治体や地域住民との調整に時間をかける。デザイナーも歴史や文化の勉強を欠かさないが、時には認識不足で、地元の住民代表からしかられることもあるという。慎重に調整を進めた結果、10年がかりで開業した店もある。

「デザイナーも、人や社会のために貢献したい人を採用します。優れたデザインは、より人を大切にするためのもの。インハウスのデザイナーが、自分の世界観だけにこだわる人では困ります」

米国企業が日本で成功する秘訣は「溶け込む」

日本のカフェ文化史を研究してきた筆者は、スターバックスを、「日本の喫茶業界を変えた黒船」として評価しており、著書にも記してきた。

特に、1996年の日本1号店の開業以来、「女性をコーヒー好きにした」こと、スタバに影響を受けた競合カフェの「ドリンクメニューの多様化が進んだ」功績は大きい。昭和時代の喫茶店は男性客中心で、商品開発も今ほど盛んではなかった。「当時はブレンド、アメリカン、アイスコーヒーの3メニューで、注文の6割がまかなえた」(競合チェーン店の社長)という店も目立ったからだ。

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