貴乃花親方引退にテレビが頭を抱える理由 花田家と相撲の72年、愛憎と癒着の歴史

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ちなみに、テレビのスタンスも実は難しいものがあり、報道・情報部門とスポーツ局などではやはり温度差がある。

「貴乃花寄り」の伝え方のほうが視聴者のシンパシーを得られやすいことは確かだが、テレビとしては一応「公平性」も担保しなくてはならない。

それと同時にニュースなどで流す本場所の取組映像(白鵬vs稀勢の里といった一番)は、相撲協会の協力を得て使用しているものである。また巡業の取材や相撲関連の特番も相撲協会の許諾が必要であり、許諾がなければ過去の名勝負もオンエアできない。

相撲協会は、(協会から見て)協会批判が過ぎるとさまざまな規制をかけることがあるので、力士の出演番組や大相撲関連のイベントを抱えるテレビ局は、担当部署であるスポーツ局などからやんわりと「忖度」を求められたりするのである。貴乃花親方が言うところの有形無形の圧力といったところか。

若いテレビスタッフは若貴ブームを知らない

そしてもう一点。ここ10年くらいにテレビ業界に入ってきたスタッフは、若貴ブームを知らなかったりする。

若貴デビューが30年前、貴乃花横綱昇進が24年前、引退は15年前だ。当時密着していたスタッフも50代半ばになっているのだ。あと10年もすれば若貴ブームも若い世代にとっては〝歴史上の出来事〟になっていくのだろう。

貴乃花親方が相撲協会を去るのはテレビにとっては大きな損失である。これまで30年、父の代から通算すれば約50年もの間人気スターだった花田家の人間が遂にいなくなってしまうのだ。

このまま貴乃花は協会を去り、「花田光司」として相撲の普及などに力を入れていくという(「貴乃花」の名称は一代年寄として彼のものなので使用は可能だと思われるが)。

大相撲(=相撲協会)での花田家ストーリーは幕を閉じたとしても、花田光司の相撲ストーリーは続くのだ。テレビも、ひとまずは貴乃花の動向を追うだろう。弟子の育成による協会へのリベンジなのか、新団体設立なのか。あるいは次なるスキャンダルなのか。

何かが起きれば番組で取り上げられるだろう。それは、協会を離れた貴乃花の話題がこの先も変わらず視聴者の興味を惹き続けていれば、の話なのだが。

村上 和彦 TVプロデューサー、京都芸術大学客員教授

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むらかみ かずひこ / Kazuhiko Murakami

1965年生まれ、神奈川県出身。日本テレビ放送網に入社し、スポーツ局に所属。ジャイアンツ担当、野球中継、箱根駅伝などを担当する。その後制作局に移り、「スッキリ」「ヒルナンデス」「ブラックバラエティ」「24時間テレビ」など幅広いジャンルで実績を上げる。2014年、日本テレビを退社し、TVプロデュースの他、執筆、講演会など活動の場を広げている。現担当 : BSフジ「プライムオンラインTODAY」監修演出など。

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