「怒りを爆発させる女」は男女平等の"象徴"か 米国で考えたセリーナ・ウィリアムズ問題

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「男性なら自分の怒りをはっきり表しても『意見をはっきり言うやつだ』と思われるだけなのに、女性の場合はヒステリーだと言われる」「マッケンローなどもラケットを壊したりしていたのに」と指摘する人も。

またセリーナ選手は女性であるだけでなく、黒人としてさまざまな差別を受けてきたから差別に敏感になっているのだ、と同情している人もいます。

中継を見ていた別の友人は「試合ではなおみ選手のほうが圧倒的に優勢で、自分が負けそうになったから平常心を失い、主審に対して感情を爆発させてしまっただけで見苦しい」とセリーナ選手を批判しています。一方で「難産で子どもを産んだ36歳の元女王に勝たせたいと思っていた人たちがブーイングしたのをなだめたウィリアムズは立派だ」と言う女性もいました。周囲を見ていると女性のほうが喧々諤々熱心に議論し、セリーナ選手の態度を批判する人が多く、一方で男性のほうは彼女の態度に寛大ですが、それほど関心がないようです。

私はセリーナ選手の態度を残念に思うほうです。確かに男性なら怒りの爆発を許容されるのに女性が許されないのは不公平です。でも、怒りを爆発させるのはたとえ男性であっても美しいことではありません。男性でも名選手たるもの、たとえ負けても礼儀正しく振る舞い、潔く勝者を祝福することを期待されます。それはとても難しいことで、できない男性もたくさんいますから、男女平等に女性も理想的な振る舞いができず人間としての欠陥を表しても許されるべきだというのも1つの考え方です。

私は子どもの頃から男の子はお行儀が悪くても許される、汚い言葉を使ってもしょうがないと認められる。整理整頓が下手でも、料理が下手でも勉強ができればいいだろうと受け入れてもらえる。それに対して女の子が同じことをしようものなら「女の子らしくない」というだけでなく、人間的に劣っているように非難されるのは、本当に不公平で女の子は損だと思っていました。

そして大人になっても女性は家事育児はもちろん、気配りや身だしなみや言葉遣いなどやらねばならないこと、気にしなければならないことが男性より多すぎて、しっかり仕事に集中できないことにいら立ちを持っていました。社会は男性の弱点には寛容で女性の欠点には厳しいのが男女不平等の最たるものと思っていました。

低いところでの「平等」ではなく

しかし私も考え方を変えました。男女平等は低いところでの平等を目指すのではなく、高いところでの平等を目指すべきだと思うようになっています。男性が乱暴な言葉を使ってよいのだから女性も乱暴な言葉を使ってもいいのだ、男性のように荒々しく振る舞ってもいいのだ、と男性の悪いところを女性もまねることは低い平等です。

セリーナ選手の今回の振る舞いも同情すべきところはあったにしても、負けて余裕を失い怒りを爆発させるのは、褒められたことではありません。難しいことではありますが、形勢が不利なときも自分の怒りをなだめかっこよく振る舞うようにするのが、アスリートのマナーでありたしなみです。男性も女性も同じです。

本当の男女平等は男性にも乱暴な振る舞いや暴言を許さず、礼儀正しく振る舞い、弱い人にやさしく接し、家事や人間関係もしっかりこなすよう求めることです。そして勇気や決断力、責任感、誠実さ、努力などのよき行動を女性も身に付けるよう求めることです。高いレベルでの男女平等を目指すのがこれからの女性の美学です。

坂東 眞理子 昭和女子大学総長

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ばんどう まりこ / Mariko Bando

1946年、富山県生まれ。東京大学卒業後、1969年に総理府(現内閣府)に入省。内閣広報室参事官、男女共同参画室長、埼玉県副知事、在オーストラリア連邦ブリスベン日本国総領事などを歴任。2001年、内閣府初代男女共同参画局長を務め、2003年に退官。2004年から昭和女子大学教授、2007年から同大学学長、2014年から理事長、2016年から総長を務める。著書に330万を超える大ベストセラーになった『女性の品格』ほか多数。

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