日本は「超エリート」をGAFAに奪われている 「国vs.企業」新しい人材争奪戦が始まった

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日本の政治家が電子メディアやネットメディアに疎いのも問題です。選挙では圧倒的な有力政治家の事務所でも、SNSの更新がぱったり止まってしまうことはザラにあります。日本がこのデジタル時代にも経済大国として世界と競争していくというのなら、いまの社会ではどこに競争が生じていて、どのように人材が流動しているのかをよく見なければなりません。しかし、そんな情報環境にいる、デジタル音痴の、高齢化した国政政治家たちが、世界の現状を理解し、適切な政策を採ることははたして可能でしょうか。

日本で「AIでBI」は成立しない

プラットフォーム企業が繁栄する時代は、国家にとっては新たな変革が求められる時代です。少子高齢化する日本が今後も経済大国であり続けられるという楽観的な見方をするケースとして、AIでBI――つまり人工知能、というよりはアルゴリズムでオートメーション化し、ベーシックインカムで富を再分配すればみんなが幸せな人生を送れるようになるだろう――などと考える論者もいます。しかし、それが成り立たないのは明らかです。

『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』にもジェフ・ベゾスがBIを主張するエピソードが出てきますが、それはアメリカだからできることですよね。GAFAやそれを追いかける企業のほとんどがアメリカにある。そして、アリババなど中国企業の名前は挙がっても、日本の企業の名は1つも挙がっていないという現実は重要です。GAFAのような企業は世界各地から富を集めていて、それは場合によっては自国内では再分配できるかもしれませんが、その富が国外、日本にまで再分配されるわけはない。

ですから、世界第3位の経済大国を維持したり、BIを実現したりしようとするなら、日本発のグローバルなプラットフォーム企業を望まなければなりません。しかし、いくら国内のスーパーエリートを支援・育成しても、彼ら、彼女たちが国外に流出してしまったらどうでしょう。母国の成長や再分配に寄与してくれる「われわれのスーパーエリート」ではなくなってしまう。その意味で人材獲得や人材流出は、国家の成長のためにも再分配のためにも、避けて通ることはできません。

GAFAなど現行のプラットフォームは、わたしたちの生活を大きく規定しています。若く、特殊な知識のない人でも、一度スマホとネット環境を手に入れ、そうしたプラットフォームを利用できれば自動翻訳などで世界中の情報に簡単にアクセスすることができる。他方、いくらお金を持っていても、デジタルリテラシーがなく、プラットフォームに乗れず、世の中から遅れてしまっている年配の方も少なくありません。そこでは経済格差とは別の、情報格差、生活スタイルの断絶が生まれています。

『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』は、物心ついた頃にはスマホやGAFAがあったいまの学生たちには、自分たちの生きている世界の背景や駆動力を理解するためのガイドであり、受け入れやすい本だと思います。一方で、年配の方々にとっては「こういう世界があるのか!」という驚きがあるかもしれませんね。

現在、他の先進国はGAFAの衝撃は十分に理解したうえで、「GAFAをどう飼い慣らすか?」を議論しています。日本の一般社会はまだそこまでたどり着いていません。本書は、日本人にとってはそのキックオフとなるGAFA入門書となるでしょうし、特に政策決定に携わる政治家たちには読んでいただきたいですね。

(構成:泉美木蘭)

佐藤 信 東京都立大学准教授

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さとう しん / Shin Sato

1988年、奈良県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院法学政治学研究科博士後期課程中退。博士(学術)。東京大学先端科学技術研究センター助教を経て2020年より現職。専門は政治学、日本政治外交史。著書に『日本婚活思想史序説』(東洋経済新報社)、『鈴木茂三郎』(藤原書店)、『60年代のリアル』(ミネルヴァ書房)、共編著・共著に『政権交代を超えて』『建築と権力のダイナミズム』(ともに岩波書店)、『天皇の近代』(千倉書房)、『近代日本の統治と空間』(東京大学出版会)など。

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