マレーシアに留学する日本人が急増したワケ 就職活動で「新興国」の経験が評価される

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「日本に帰ると昔の友達はケータイ出してゲームしたりしてる。けれどカンボジア、タイ、インド、インドネシアの大学の友人たちとは実のある面白い話ができる。インドに行った友人は最初は環境がつらくてうつ病みたいでしたけど、今はインド大好きになって、インド資本の企業に勤めたいって言ってますよ」と笑う。

日本人が委縮せずに済む環境

欧米の大学では日本人同士で遊んでしまうと聞くが、それはないのか。

「確かにいきなりネーティブの国に行くと英語で挫折する人が多いんです。こちらだとコミュニケーションできればいいというマインドセットができるので、欧米に行っても気後れしないくらいの度胸がつく。日本人は、相手が西洋人だとビビっちゃってうまくいかないことがある。アジア人だしちょうどいい位置にいる」と石川さん。もちろん、英語で挫折して日本に帰る学生もいるのだが、少数だという。

左から松野健太郎さん、藤山華梨衣さん、本橋恵美さん、土戸悠生さん。それぞれの大学生活を楽しんでいる(筆者撮影)

また差別がないのも大きい。松野さんは、「欧米から来た人に、差別がまったくないというと驚かれます。欧米では英語ができないだけで『ふん』とバカにされると。マレーシアでは、違う民族同士なので相手の話を聞くのが当たり前。下手な英語でも熱心に聞いてくれる。逆なんですよ」と言う。

藤山さんも「今は、たとえアメリカに行けるお金があってもマレーシアに来てよかったと思います。断食してヒジャブを被るイスラムの友人のリアルに触れ、成長真っただ中のアジアの現実を知った。これからはビジネスも日本のインバウンド需要もアジアの人が多いでしょう。その中で学生時代を過ごせているのは大きい」。

実際に、JSAMで学生にアンケートを取ると、1年生は日本に就職したいという人が大半。ところが3年になると海外で働きたい人が増えてくるのだそうだ。「日本のよさも悪さも見えてきて、こだわりがなくなったんでしょう。僕も将来は日本に帰って就職するのが当たり前だと思ってたけど、世界中どこでもやりがいがあればいいかなと思っています。学生でもマレーシアに来た人がいちばん楽しんでるんじゃないかな」と代表の松野さんは解説する。

逆に「日本のほうがいいことは何か」と聞いてみた。

「遊ぶならやっぱり日本のほうがいいでしょう。それから就職活動時のサポートがまったくないのはつらいです。日本なら、就活はある時期に一斉スタートで情報交換をしますが、こちらは全部自分でやらないといけない。だから21歳のときにマレーシア留学生負けるな、とJSAMを作った。初めは日本人を避けてたけれど、よく見たら日本じゃ出会えないちょっと変だけど個性的で魅力的な日本人がいっぱいいるのに、何にもしないのはもったいないなと」(松野さん)

サポートする側の石川さんは、「もちろん環境に合わない人はいます。授業計画が途中で変わることもよくありますし、自分でいちいち決めるのが不安な人や衛生面を気にする人には向いていないかもしれません。テレビでよいところだけ見て期待しすぎてくると落胆する人がいます」と話す。

しかし学生たちは前向きだ。藤山さんは言う。「来たときはマレーシア、大丈夫? 英語通じるの?と軽蔑の目で見られてた。今は日本の友人たちからはうらましいって無茶無茶言われます。最高です」

土戸さんは「日本の大学生には、短期の留学でもいいから海外を見てほしい。僕が知ってるのはマレーシアだけだけれど、多文化でも、ハラルでも観光でも、東南アジア・インドは大きな要素になっていくのではないでしょうか。ここで過ごした学生時代は、就活にとっても人生にとってもいいと思います」と締めくくってくれた。

野本 響子 ジャーナリスト

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のもと きょうこ / Kyoko Nomoto

東京都立青山高校、早稲田大学法学部卒業。安田火災海上保険(現損保ジャパン)を経てアスキー入社。『MAC POWER』(アスキー)、『ASAHIパソコン』『アサヒカメラ』(朝日新聞出版)の編集者を経て現在フリー。『僕がアップルで学んだこと』『企業が『帝国化』する』(ともに松井博著/アスキー新書)編集。著書に『いいね!フェイスブック』(朝日新聞出版)、『マレーシアの学校の○と× アジア子連れ教育移住の第一歩』(Kindle)ほか。1990年代半ば、仲良くなったマレーシア人家族との出会いをきっかけに、マレーシアの子育てに興味を持ち、現在クアラルンプール郊外に長期滞在中。趣味はオーケストラでの楽器演奏。

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