日本人が「政治の話をしない」背景にあるもの フランス人は所構わず政治の話をしている

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エマニュエル : でもフランス人は政治について話すことで、かなり多くの時間を失っているともいえる。たとえば経済に関する政治の話だと、議論に必要な知識を持っている人がそんなにいるわけでもないので、すごくつまらなくて非生産的な議論がダラダラと続いている、なんてこともけっこうあるんだ。しかも、異様に攻撃的に反論してくる人もいて、無駄な時間とエネルギーを使ったような気になることも。

日本だとこういうことはほぼないでしょう?

激論を交わしたフランス人同士がその後したこと

くみ:そうね。それぞれ、政治に対して何かしら思うところはあっても、友人とか職場の人と意見が違う可能性が高いテーマでもあるから、あえて話題に出さず、触れないという人も多いのかも。意見の違いを認め合って、それでもほかの部分は変わらず親しい関係でいられる、ということが日本では難しいのかもしれないなあ。

エマニュエル : まぁでも、いくら不毛な議論が多くて、時間を失っているといえども、政治の議論に対する執着は民主主義国家で生きるうえでは大切だとフランス人は思っているよ。少なくとも一人ひとりが社会について考えるいい機会にもなるし、独裁者が現れにくい社会にもなるしね。

日本人があまり政治の話題をしないのは、何か理由があるの? たとえば、ほかの人と違う意見を言うのをためらうとか。

くみ:「空気を読む」とか「あえて言わなくてもわかって当然」といった空気が重視されることも多い日本は、つまり同じ感覚を共有していることが前提だよね。だから、少しでも意見が違うと、互いに居心地が悪かったりする。そういう状況を避けるために、政治に限らず、よく知らない人同士だと余計に遠慮しあって、本心ではないのに付和雷同という現象が起こったりするのかもね。

さっき話した、激論を戦わせたフランス人の友人同士は、最後は興奮状態で意見の食い違いに対して互いににらみ合うような状態だったんだけど、それをずっと見守っていた周囲の1人が「よし、そろそろデバは終わりにしようか」と言うと、即座に「オーケー、ねえ、フィリップ、これからも友達でいてくれるね?」「もちろんだよ、ジュリアン!」と抱擁を交わしていた。

デバの最中は今にも取っ組み合いのけんかになりそうな勢いで、私はてっきり、彼らはこれで絶交でもするんじゃないかと思ったんだけど、その後本当に何事もなかったかのように仲良しで。とても印象的だったな。

エマニュエル : そうだね、そう考えるとこの違いはフランスと日本の根本的な社会の違いといえるかもね。またの機会にもっとこのテーマで話し合うのもいいかもね。

佐々木 くみ 執筆家、イラストレーター

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ささき くみ / Kumi Sasaki

東京生まれの30代。フランス在住10年を超す。2017年10月に、エマニュエル・アルノーと共著で自らの体験をつづった『Tchikan(痴漢)』をフランスで出版。イラストも手掛けた。

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エマニュエル・アルノー 小説家

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Emmanuel Arnaud

1979年生まれ、パリ出身。2006年より児童文学、小説、エッセーをフランスにて出版。2017年にThierry Marchaisseより佐々木くみとの共著『Tchikan』を出版。2000年代に数年にわたり日本での滞在、および勤務経験を持つ。個人のサイトはこちら

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