「テスト結果を賞与に反映」が失敗する理由 「点取り教育」の被害者となるのは子どもだ

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こうしてみると、やはり今回の吉村大阪市長の主張が、大阪市の生徒・児童にとってポジティブな影響を大きく与えるようには思えない。ただ、大阪市の教員に話を聞いてみると「教師の意識を学力向上に向けることには意義がある」「方法はどうあれモチベーションを高めることの重要性は感じる」という現状に対する危機感を感じさせる言葉もあった。もちろん、教師の意識の変容によって、生徒の学びが深まったり、結果的に学力が高まったりすることはあるはずだ。

しかし、大切なのはそれをどのように行うか、なのだ。筆者は、行政が教員にコミットすべきは「報酬」ではなく「育成」だと考える。それはどういうことなのか、大阪市とは対照的な改革を始めた自治体を例に説明していこう。

大阪府のもう一つの政令指定都市である堺市は2018年7月、「堺市教育デベロップメントプログラム」という教員研修を始めた。民間と教育委員会が連携した自治体初の取り組みで、生徒の主体性を引き出し、探究的な学びを促進する次世代型の教員を「育成」することを目的としている。具体的には、「アクティブ・ラーニング」や「探究型の学び」といった、いま求められている教育をまず学習者として教員自身が体験し、そのうえで理論や学びのデザインの手法を学ぶことで自らの授業実践や学校改革に活かしていくというものだ。

新しい学び方や教育が求められていくなかで手法だけが独り歩きしてしまっていることを課題と捉え、まずは自分が体験し、教育観や教育における信念を見つめ直したり、社会の変化やこれからの未来を見据えて「いま本当に必要な教育とはどんなものか」ということを改めて考え、議論することからはじめるのが特徴である。また、教育学にとどまらない研究者やグローバルカンパニーの組織開発に関わるビジネスマンとともに開発された研修は、最先端の学習理論や教育メソッドが盛り込まれている。

この研修によって、生徒の主体性や創造性を向上させられる教員が育てば、それは「Education 2030」プロジェクトや新学習指導要領、新しい入学者選抜でも注目される能力を育めることになる。ノウハウやスキルではなく、教員自らが「主体的な学び」を体験し、その理論や技術を学び実践することで、生徒一人ひとりの自ら学ぶ喜びをとらえられるようになり、一人ひとりに合った学びを最大化できるようになるかもしれない。その結果、児童・生徒の学力も上がる可能性もある。

育成と「働き方改革」を両立させるには?

ただ、こうした育成を可能にするには、教師の多忙問題に着手しないことには始まらない。世界一忙しいとされる日本の学校の先生にも、当然働き方改革の波は来ている。そのため新たな研修や取り組みに対し、多くの自治体が非常にネガティブになっている。

しかし、ひと足先に働き方改革が始まった産業界で、「サービス残業が増えた」「業務量は減らないのに時間だけチェックされるようになった」という苦情が散見されていることからも明らかなように、必要なのは「業務を減らす」働き方改革ではなく「本質的な取り組みによって業務を効率化させる」働き方改革である。

学校がそこに向かうためには、教師の教育観のシフトや、学校外のリソースをうまく用いることのできる教師となることのほうがよっぽど効果的だろう。長期的な価値も間違いなく大きい。堺市の研修では教育分野外、特にビジネスの分野からの情報収集や人的な交流も行われるので、そうした学びが業務の効率化につながるかもしれない。

報酬か育成か。どちらが、真に生徒たちの学びを最大化させる教師を生み出すのか。この段階では誰もまだわからない。大阪府を代表する2つの都市が繰り広げる教員に向けた新たな改革の動向をこれからもウォッチしていきたい。

福島 創太 教育社会学者

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ふくしま そうた / Sota Fukushima

1988年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、株式会社リクルートに入社。転職サイト「リクナビNEXT」の企画開発等、企業の中途採用に関するさまざまな業務に携わる。退社後、東京大学大学院教育学研究科修士課程比較教育社会学コースに入学し、若者のキャリア形成について研究、修了。現在は同大学院博士課程に在学しつつ、株式会社教育と探求社で、中高生向けのアクティブ・ラーニング型キャリア教育プログラムを開発。また、一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブで、生徒の21世紀型スキルを育む教員の支援、研修にも従事している。近著に『ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?――キャリア思考と自己責任の罠』(ちくま新書)。

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