「テスト結果を賞与に反映」が失敗する理由 「点取り教育」の被害者となるのは子どもだ
では、2つ目の論点「学力テストの順位を高めることに意味があるのか」についてはどうだろうか。この点についてもやはり否定的な見解を持たざるをえない。なぜなら、学力テストの点数向上のための指導偏重となり、本質的でこれから必要な能力の育成が疎かになる懸念があるからだ。
学力テストは、「主に知識」を問うA問題と、「主に活用」の力を問うB問題で構成されている。教育心理学や発達心理学を専門とする東京大学の藤村宣之教授は、日本の子どもは、概念的理解やそれに関連する思考プロセスの表現が相対的に苦手であると指摘している。こうした能力は解や解法が多様である非定型的な問題解決によって測ることができるわけだが、それはB問題に該当する問題が多い。
そして藤村氏はこの概念的理解や思考は、①他者から新たな情報を得ること、②他者に対して説明することで思考を精緻化すること、③他者とともに知識を協働構築することから成る、「協同的探究学習」によって培われると説いている。しかし単純に、短期間で点数を上げようとするならば、反復によって習得が可能となるA問題のほうが上げやすいとされている。理解や思考が深まらなくても、ある種トレーニングによって点数を高めることが可能なのがA問題なのである。来年度からA問題、B問題を統合させるという報道もあるが、「どのような学力を伸ばそうとするか」というのは問題が統合されたとしても残る論点である。
つまり、学力ではなく「学力テストの点数」を短期間で上げようとするばかりに、「上げやすい指標」に取り組み、生徒たちにとって苦手だったり、本当に身につけなければならない学力だったりがなおざりになってしまう可能性があるのだ。
「本当に身につけなければならない学力」とは何か
経済協力開発機構(OECD)が行う「生徒の学習到達度調査(PISA調査・3年に1度実施)」では、それまで主要3分野として「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」を測ってきた。しかし、2015年調査より革新分野として「協働問題解決能力」調査が加わったのだ。
この「協働問題解決能力」の調査は、OECDが2030年に向けた教育のあり方を世界に提案することを目的に推進している「Education 2030」プロジェクトの一環として行われた。さらに、グローバル・コミュニケーション力、文化横断的・相互的なものの考え方、多様性の尊重などをその内容とする「世界で生きるためのグローバル・コンピテンス」なる項目が2018年調査から加わり、日本は今回参加を見送ったが、2021年調査への参加については引き続き検討をしている。
文部科学省が2020年度以降に小中学校で全面的に導入する「新学習指導要領」においても、大学入学者選抜改革などを含めた「高大接続改革」においても、同様の方向を向いている。入学者選抜改革では「学力の3要素」として、「知識・技能」に加え、「思考力・判断力・表現力」そして「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」が掲げられている。
もちろん、PISA調査や新しい入学者選抜の中で測定しようとするスキルの中身やその妥当性、それを測ることの是非についても議論はあるが、従来重視されてきたスキルとは別の、新たなスキルを重視する流れがあることは事実である。
学力テストで測られる国語、算数(数学)、理科の点数を伸ばすということ自体が無駄であるということは決してないだろう。知識の習得はこれまでもこれからも一定程度の価値があるだろう。しかし、変化の激しい時代を生きる子どもたちに対して、知識偏重の指導をすることにはリスクがある。
そのため、「学力テストの順位を高めることは意味があるのか」という問いに対しても、否定的な見解を持たざるをえない。
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