ソニー好調支えるスマホゲーム「FGO」の威力 開発責任者が語る、大ヒットRPG成功の舞台裏

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――ディライトワークスの企業理念は、「ただ純粋に、面白いゲームを創ろう」です。FGOの爆発的人気に伴って、これが難しくなってきたと感じることはないですか。

特にはない。アニプレックスも、イベントなどを含めたマーケティングは一緒にやっているが、ことゲームの開発に関しては原作者とディライトワークスの2社に任せてくれている。

庄司顕仁(しょうじ・あきひと)/2000年スクウェア(現スクウェア・エニックス)入社。同社品質管理部長、傘下のスタイルウォーカー(現タイトー)社長などを経て、2014年、ディライトワークス設立。“ただ純粋に、面白いゲームを創ろう。”が企業理念。FGOで好きなキャラクターは、ケルト神話上の人物がモデルの「スカサハ」(撮影:梅谷秀司)

「これをやったら面白いが、場を乱すのではないか」と自粛することはどの仕事でもあるだろう。予算や時間などにも縛られる。そういうしがらみを捨てて、お客様に楽しんでもらえるものを作っていけたら、というのが企業理念に込めた思いだ。

売り上げを立てるためにゲームを作るのではなく、面白いゲームを作って、ユーザーがそれを評価することによって収益が上がり、もっと面白いゲームを作るためにそれを使うという優先順位は守られるべき。だから、社員に私から数字の話をすることはあまりない。

働き方や給料ももっとよくしたい。そうした思いもあって、会社を立ち上げてから1年半くらいの間、社長の僕はほぼ無給。ヤフオクでモノを売って、ラーメンの特盛りを頼むのも躊躇するような超のつく貧乏生活だった(笑)。それでも社員にとっての優先順位は変えたくなかった。最近はよく「成功されましたね」と声をかけてもらうが、まだまだ発展途上だ。

ゲームだけを作っていてはいけない

――現在はスマホゲームの「FGO」が主力製品ですが、会社として今後はどこに向かっていくのでしょうか。

すでに発表しているものも含め、複数のタイトルを考えている。他社との協業もあれば、オリジナルもある。今後、当面はスマホゲームがビジネスの中心になっていくことは間違いないが、5年後、10年後はわからない。

これまでも20年ほどのサイクルでプラットフォームの移り変わりがあったので、今のうちにさまざまな可能性に挑戦しておく必要がある。その点、現在はFGO人気によって、VR(仮想現実)ゲームや実世界でのゲームイベントなど、あらゆる挑戦ができるのはチャンスだ。

今年7月に幕張メッセで開催された「FGO Fes. 2018」には2日間で3万5000人が来場した(撮影:梅谷秀司)

スマホゲームは、隙間時間に遊べる一方で、作品として記憶に残りにくい。われわれが提供したいのは、2〜3年のサイクルで、はやり廃りのあるものではなく、10年経ったらその分価値が高まるような作品だ。たとえば、僕がスクエニでかかわった「ファイナルファンタジー」はその1つだと思う。

FGOもここから派生作品が出てくるものだと自負している。スマホだけで完結しない部分は、ゲームセンターのゲームやアニメ、劇、画集、イベントなどを提供することで世界観を作り上げていく。そういう意味では、ゲーム制作会社でありながら、ゲームだけを作っていてはいけない。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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