「VR体験」を脳と体はリアルな体験と誤認する バーチャルリアリティーの果てしなき未来
PTSD、人間関係、身体問題、環境問題、弱者への共感、慢性疼痛、スポーツトレーニング、教育、などなど。バーチャルリアリティー(VR)はこれほどまで多くのことに応用できるのか。『オンデマンド経験-バーチャルリアリティーとは何か、それはどう機能して何ができるのか』という原題が示すように、VRはいとも簡単に必要な「経験」をもたらし、さまざまな応用が可能なのだ。
一度経験すれば、VRに対する見方がまったく変わると言われたことはあるが、いまだにその経験はない。たかがゲームを面白くする、あるいは、映像メディアの延長だろうと思っていたのは浅はかだった。VRのことをまったく知らなさすぎたといえばそれまでだが、この本の内容には心底おどろいた。
著者、スタンフォード大学心理学教授のジェレミー・ベイレンソンによると、「VR経験は『メディア経験』ではなく『経験』そのもの」である。驚くべきことに、あくまで仮想空間での体験であっても、VRでの体験はあまりに強烈なために、脳も体も本物の体験だと認識してしまう。それをさまざまな目的に利用できるという。いくつかの事例を紹介しよう。
PTSD患者にVR経験の治療が有効な理由
9.11の同時多発テロの仮想空間を構築する治療用VRが作成され、PTSD(心的外傷後ストレス障害)患者の治療に使われた。ある若い女性患者ではPTSDの症状が90%おさまった。十分な精神的トレーニングを積んでいたにもかかわらず、9.11の壮絶な経験からPTSDになった消防司令長の場合は、VR経験により「自分の死を心から確信する」ことがPTSDの原因だったことがわかり、記憶の修正にとりくむことができ、症状の大幅な改善につながった。
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