世界を騒がす「見るだけで買える」技術の正体 グーグルやアリババなどが出資する謎の企業
体育館にクジラが現れた!
ARは、「現実を拡張する」という名のとおり、デジタル・コンテンツを実世界に重ね合わせて眺めることができる。これまでVR(仮想現実)が世の話題をさらってきたが、その親戚のようなARは、消費者にもっと大きな影響をもたらすと確信している人が多い。また、AR市場は早ければ2020年にも900億ドル市場に達すると見られている。
拙著『小売再生 ―リアル店舗はメディアになる』でも触れているが、筆者がブランドや販売店向けにAR活用事業を手がけるレイヤーやブリッパーといった企業を追いかけ始めたのは2009年のことだ。
大手家具量販店のイケアはAR技術を利用してユーザーが同社カタログにある商品を自宅に仮想的に配置してみることができるサービスを開始した。玩具大手のレゴでは、店内で箱入りレゴセットの中身を子どもたちに見せるサービスに乗り出した。また、建築資材メーカーは、客が新製品を自宅などのスペースや壁面にARで重ね合わせてフィット感を確かめるサービスを展開している。
ARの分野で、謎に包まれた素性もさることながら、メディアの前評判も高く、資金調達額も抜きんでていたのがマジック・リープだ。2010年創業の同社は、「デジタルと現実世界の暮らしが渾然一体となった空間を体験できるコンピューティング・プラットフォーム」と謳っていた。
端末上でデジタル・コンテンツを生成し、搭載カメラで捉えた現実世界の景色に重ね合わせて表示するAR技術と異なり、マジック・リープが目指しているのは、“複合現実”(Mixed Reality=MR)だと創業者のロニー・アボビッツは説明する。ホログラムの生成に使われる技術と同じ光照射野と呼ばれる技術がある。
アボビッツが言うMRは、この技術を使い、わたしたちの目を通じてデジタル映像を脳に送り込むことで、脳は現実を見ていると錯覚を起こす。基本的に人間の脳をコンピュータのプロセッサーとして利用することにより、従来とは一線を画する劇場映画並みの高画質が実現する。要はマジック・リープが開発していたのは、ホログラフィ技術で生成した画像をわたしたちの脳を介して直接ユーザーに見せる手段だったのだ。
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