世界を騒がす「見るだけで買える」技術の正体

グーグルやアリババなどが出資する謎の企業

ちなみにこのイノサイトの創業者は、シリコンバレーのバイブルとされている『イノベーションのジレンマ』の著者でもあるクレイトン・クリステンセンである。この本もクリステンセン率いる同社も、破壊的技術というコンセプト、そして企業や発明家が常識を覆すようなイノベーションで市場を劇的に変える方法に重点を置いている。

「イノサイト勤務時代、こうしたフレームワークのことばかり考えていた。ある日、一緒に買い物に出かけた妻が店で試着をしていました。確か10着以上のジーンズを試着していたと思いますが、結局、何も買わずじまい。見るからにがっかりして不機嫌になっていました。

私はふと『大変だな。みんなこんなに苦労しているのか?』と思ったんです。それがきっかけでしたね。オンラインで自分のサイズなどの情報を登録しておいて、どの商品ならぴったりだとか、どの商品はサイズが合わないとか、どのサイズを買うべきかといったことを教えてくれたら便利じゃないかと気づいたのです」。

「あなたに似合うものだけ」の店

この経験に背中を押されるようにベンチャー企業トゥルー・フィット(本社マサチューセッツ州)を仲間と立ち上げ、約1万以上の洋服・靴ブランドを対象に膨大な商品データを蓄積する一方、3000万人を超える世界中の登録ユーザーのスタイルや着用感の好みとのマッチングを図っている。同社では、これを「史上初の洋服と靴のゲノム」と呼んでいる。

この機能を各小売業者のウェブサイト内に常駐させ、スタイルと着用感についておすすめ情報を手際よく教えてくれる使い勝手のいいエンジンが誕生した。気になる商品が自分に合うかどうかわからない場合、トゥルー・フィットに好みのスタイルやサイズに関する情報をいくつか入力するだけで、ほかのユーザーや規格に関するデータを参考に推奨品を案内してくれる。このエンジンを使うユーザーが増えれば増えるほど、推奨の精度が高まり、ますます使えるようになるのだ。

「実際に百貨店で買い物をするのと同じような体験ができるので、自分には合わなかったといった失敗とは無縁になります。しかも、推奨品としてあがってくる商品はすべてユーザーに気に入ってもらえるはずです。そういう商品ばかりを見て回るわけですから、これからは嫌な思いをせずに大好きなショッピングを心から楽しめるようになります」(エバンス)。

『小売再生 ―リアル店舗はメディアになる』(プレジデント社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

従来のオンラインショッピングについてエバンスは「もっと重大な問題があります。携帯電話は画面のサイズが限られているため、検索結果として出てきた20着すべてを一覧できず、ページを切り替えていく必要があります」と指摘する。それだけに本当に自分の体型にフィットしそうな商品が表示されることはこれまで以上に重視されるという。

着用感の問題の解決に取り組んでいる企業はトゥルー・フィットだけではないが、商業的にそれなりの成果をあげているという意味では、筆者が最初に把握できた企業の代表格と言える。エバンスによると、直近の実証実験では、小売業者の純利益はトゥルー・フィット採用前と比べて平均5%の増加が見られ、返品率は劇的な減少を記録したという。

トゥルー・フィットは蓄積データが充実することで、着用感やスタイル、さらには購入データなどに基づいた、ユーザーのファッション・アイテム選びで積極的なアドバイスができる程度にまでマッチングの精度が上がるとエバンスは見ている。オンラインのどの店でも自分専用のアルゴリズムがついて、自分にぴったりのアイテムだけを提示してくれる。

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