世界を騒がす「見るだけで買える」技術の正体 グーグルやアリババなどが出資する謎の企業

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ここに挙げたリストが仮に話半分だとしても、それでもマジック・リープは相当なインパクトをもたらしそうだ。マジック・リープのショッピングに対する考え方もかなり独特だ。最高マーケティング責任者のブライアン・ウォーラスは、同社が開発している「ルック・バイ」というアプリケーションについて語っている。商品を見つめるだけで買い物ができる商取引システムだという。

「たとえば誰かが着ているセーターが気になって眺めているうちに、『これ、欲しいな』と思ったとします。すると、このシステムは、ユーザーがセーターを見つめていると認識して、(ネット通販の)アリババを起動させ、そのセーターを認識し、今なら10%引きで買えますよと知らせてくれます。しかも、視線を下に落とせば、そのセーターを着ている自分の姿を確認することも可能なんです」。あとは簡単なゴーサインだけで、お買い上げとなり、支払いも完了するという。

にわかに信じられないかもしれないが、ごく近いうちに、どこにいても、何でも買える時代が来る。リビングでくつろぎながら実物大のポルシェ「911」を眺めたければ、それも可能だ。昼休みにシャンゼリゼ通りに繰り出して、週末の結婚式で着るドレスを選びたければ、すぐに出かけて買ってくればいい。オフィスのデスクから一歩も離れることなく完了できる。グランドキャニオンへの家族旅行も簡単だ。飛行機に乗る手間さえ不要だ。将来は、どこにいても、欲しいものは何でもVRで思いどおりにできるようになる。

煩わしい“サイズ試着”から解放される

ショッピングで購入に至るまでの流れがあらゆる面で手間のかからない没入型の体験になるだけでなく、カスタマイズにも対応していて、五感に訴え、人工知能による豊富な情報を提供できるようになる。いや、そうなっていくだろうことは明らかだ。

ただし、悲しいかな、(少なくとも現時点では)できないことがある。購入前に仮想的ではなく本物を試着したり、試用したりすることは難しい。購入前にきちんと試着できない事実は、衣料品のオンライン通販業界にとって最も頭の痛い問題であり、これが原因で“サイズ試着”なる現象が起こっている。

同じ商品のサイズ違いをいくつか注文し、ぴったり合うものだけ残し、あとは全部返品するテクニックだ。実際、ネット通販で販売された衣料品全体のうち、数量ベースで推定25~40%が販売店に返品されていて、販売店側は莫大な費用を負担させられている。さらに、ネット通販のユーザー側にも面倒な手続きがあるため、衣料品のネット通販の伸びを鈍らせる深刻な障害となっている。

だが近いうちに、この試着を巡る課題は小売業者にとっても客にとっても記憶にさえ残らなくなる。フェイスブック上であろうと仮想世界であろうと、見るものも買うものもすべて自分にぴったりフィットするようになるからだ。

すすめられる商品は、最適なサイズであることはもちろん、自分好みのスタイルや趣味に合うことも事前に吟味されている可能性が高い。これこそ、トゥルー・フィットのロムニー・エバンス率いるチームが実現しようとしているビジョンだ。その取り組みが始まったのは、エバンスがボストンに本拠を置くコンサルティング会社イノサイトで働いていたころだ。

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