高菜でマスタードを作る31歳女性の深い愛情

「阿蘇さとう農園」が熊本で広げる地域経済圏

種集めの手法としてもう1つ、佐藤さんはほかの農家からの買い取りを始めました。阿蘇高菜を栽培している農家の多くは、自家採種後に種を余らせたり、漬物の収穫期を逃して種を持て余したりすることは少なくありませんでした。

これまで捨てていた種がお金になるのは農家にとっては思わぬ副収入であり、70kgの種を14万円で買い取った事例もあるそうです。こうして種を集めることで製造量は年々増えていき、販売開始から4年経った今年の販売数は、初年度の20倍近い1万7000個を見込んでいます。

耕作放棄地を一面の花畑に

雄大な自然が広がる阿蘇にはたくさんの畑がありますが、このままでは耕作放棄地が増えていくと予想されています。なぜなら、ビニールハウスを建てられる田んぼと違って、畑は冬場になると厳しい寒さにさらされるからです。

年間を通して安定的に作物を作ることができないという大きな課題に対して、佐藤さんは「阿蘇高菜こそが耕作放棄地のない地域づくりにつながる」と言います。

佐藤さん(左)は観光・商業と連携を図りながら、地域資源を活かした阿蘇らしい農業のかたちを目指しています(写真:ファクトリエ 提供)

「阿蘇高菜は阿蘇でしか作れません。カルデラがあり、四季を通じて冷涼で多雨な気候と風土は、阿蘇高菜の生育環境にピッタリなんです。草取りをする必要もないので、種をまいてさえおけば栽培できます。

辛味が苦手なのか、イノシシも近寄ってこないんですよ。だから畑を荒らされる心配もありません。空いている畑で阿蘇高菜を栽培することは耕作放棄地の増加を防ぎ、そしてそれは伝統野菜の減少を食い止めることにもつながります」(佐藤さん)

耕作面積が拡大していくなか、阿蘇タカナードの生産量の増加に付随して、さまざまな出来事が立て続けに起こっています。開花シーズンのゴールデンウィークになると、栽培エリアには黄色のお花畑が広がるようになり、その光景を写真に収めることを目的に多くの観光客が阿蘇を訪れるようになりました。

さらに、畑を隙間なく敷き詰める花々は蜂蜜を生み出し、高菜の種もオイルとしての新しい用途が見つかるなど、阿蘇高菜に関連した商品が次々と生まれています。

阿蘇タカナードが与えている影響は、阿蘇高菜だけではありません。マスタードを作る際、一般的にはワインビネガーを使いますが、米どころという阿蘇の特性を活かし、阿蘇タカナードでは地元の米酢を使用しています。

オール熊本を体現するために、塩は熊本県の天草産。阿蘇タカナードが巻き込む経済圏は、高菜というカテゴリーを超えてどんどん広がりを見せています。たった1人の女性のUターンから起こったセンセーションは、まだ始まったばかり。

佐藤さんの阿蘇に対する深い愛情は、これからも地域資源のポテンシャルを引き出し続けるでしょう。

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