高菜でマスタードを作る31歳女性の深い愛情 「阿蘇さとう農園」が熊本で広げる地域経済圏

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阿蘇野菜の用途を広げるうえで、マスタードは打開策にならないだろうか。

そう考えた佐藤さんは小売店に企画を持ち込みましたが、「今の家庭はマスタードをあまり使わないよ」「伝統野菜は従来の製法がいちばんじゃないかな」というようにリアクションは芳しくありません。商品を作ったとしても、売り先がなければ在庫を抱えるだけになります。行く手を失った佐藤さんの頭に起死回生の策として思い浮かんだのは、マスタードの存在が最も求められる場所でした。

「私がマスタードを使いたくなるのはいつだろうと考えたとき、ソーセージが脳裏をよぎったんです。ソーセージの横に置いてあれば、セットで買ってもらえるかもしれない。そう思って地元のソーセージ屋さん『ひばり工房』にアタックしたところ、オーナーさんは私のチャレンジを応援してくれて、瓶やラベルの準備などもサポートしてもらうことになりました。

第一弾として作った900個の商品が、4カ月で完売したときは驚きましたね。そこから風向きは一気に変わりました。身内からは相変わらず心配の声もありましたが、事業コンテストではグランプリをいただいて新聞で取り上げてもらったり、関係者の人たちが家に出入りしたりしているうちに、少しずつ私の背中を押してくれるようになりました」(佐藤さん)

量産体制への移行は難航した

幸先の良いスタートを切ったものの、量産体制への移行に向けた構想が進みません。

商品を量産するためには種の母数が必要ですが、阿蘇高菜は自家採種での循環によって作られ続けてきました。その年に生産した作物からでしか種を採取できないため、種の数を急には増やせないのです。

それに加えて、莢(さや)が乾燥した状態で種を刈り取るため、収穫の際に種がポロポロ落ちてしまいます。種が完熟するのは梅雨前なので、収穫が天候に左右されることも量産体制への移行を妨げました。

そこで佐藤さんが考えたのが、花が乾燥する前に収穫することです。

莢が青い状態のときに刈り取れば、 取りこぼしなく効率的に種を収穫できます。収穫方法に関しても、1人の手作業では労働力的に10a(1000 平方メートル)が限界でしたが、農業機械での収穫を試した結果、種を傷つけることなく、4~5倍の面積をカバーできることがわかりました。

種が完熟していないため、味が変わってしまうというリスクについては、『産業技術センター』に分析を依頼したところ、未熟な種と完熟の種の数値が変わらないことが判明しました。

むしろ、マスタードにしたときには、未熟な種のほうがよりフレッシュでおいしくなるという“おまけ”までついてきたのです。

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