総合電機業界格付、各社の事業構造の進展や投資戦略によって影響は異なる《スタンダード&プアーズの業界展望》

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事業法人・公益事業格付部
アナリスト 柴田宏樹

米国発の金融危機を契機にしたグローバル経済の悪化が進展するなか、総合電機5社(日立製作所(A-/ネガティブ/A-2)、東芝(BBB+/ネガティブ/A-2)、三菱電機(A/安定期/A-1)、富士通(A-/安定的/-)、NEC(BBB/安定的/A-2))は、相次いで通期業績を下方修正した。今回の世界的な景気後退の影響は今後1−2年程度は続く可能性があり、5社の収益が改善傾向を回復するまでには時間がかかる可能性が高いとみている。

ただし、スタンダード&プアーズは、総合電機5社の事業分野は極めて多岐にわたり収益やキャッシュフローの安定性も異なることから、事業環境悪化の影響の受け方は各社によって異なると考えている。そのため、スタンダード&プアーズは、各社ごとに異なる事業内容に応じて、格付けへの影響を検証していく必要があると考えている。1)5社とも中核的な事業群における市場構造や競争力が依然強く、収益やキャッシュフローを下支えしている、2)財務内容も一定の耐久力が高まっている−−ことから、現時点では格付け水準を大きく下方修正することを考えていない。

今後、格付けを見直すポイントになるのは、収益やキャッシュフローの回収が十分ではない事業セグメントの構造改革の進展のほか、収益悪化に対応した柔軟な投資戦略とみている。特に、短期的に需給悪化と価格下落の回復が難しい半導体事業やHDD事業や、市場の成長が急速に鈍化する見通しの携帯電話事業に注力している企業にとって、こうした事業での競争力の低下、他の事業収益によるカバーができなくなった場合には、格付けへの下方圧力が高まる局面を予想している。

事業の構造改革が道半ばで、事業環境が急速に悪化する見通し

過去数年にわたり、総合電機5社は構造改革を進めてきた結果、2008年3月期をみると、各社とも3~4%程度の営業利益率を確保し、収益力は低いながらも安定感が増している。しかし、主力事業の営業利益率はおおむね5%以上を達成している一方で、1%以下や赤字の事業も依然残っており、構造改革は道半ばといえる。今回の世界景気の後退の波は、5社の収益にも押し寄せ、日立製作所を除く4社が2009年3月期の業績下方修正を発表した。業界全体の収益環境が悪化する見通しが高まっている。(図表1参照)

図表1:総合電機5社の売上高営業利益率の推移

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