「ハイリスク・ハイリターン」の意外な語源 知ると楽しい金融英単語の世界

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Default(デフォルト、債務不履行)

いつだったか、ロシアが「default(デフォルト)」を起こしてヘッジファンドが巨額の損失を出し、世界の経済が混乱に陥りました。デフォルトは金融の世界では「債務不履行」を意味する言葉ですが、最近は普通に日常会話でも使われるようになりました。

この言葉は中世フランス語の defaillirの過去分詞 defauteに由来しますが、そのもとはラテン語 de-(離れて)-fallire(失敗する、欺く)にさかのぼります。このつづりからde-を取るとその形が現れるのでおわかりかと思いますが 「fault(欠点、過失)」という英語もありますが、当然このファミリーです。

なんと「ファルセット」も同じ仲間

一方、先ほどのフランス語のdefaillirから想像できますが failという動詞も同じ語から発生しました。この名詞形が 「failure(失敗、しくじり)」で、それぞれ金融用語としては「証券譲渡不履行」「破産、倒産」の意味があります。「failure to pay」は「支払い不履行」という意味です。

ラテン語の fallere の過去分詞は 「falsus(欺かれた)」でここから英語の「 false(誤った、間違った)」という語が生まれ、「falsehood(虚言)」「falsify(偽る)」などの派生語になりました。

イタリア語では falso(誤った)と言いますが、これに、「小さい」「少し」といった意味を表す指小辞がついたのが falsetto という言葉ですが、皆さん聞いたことがありますか? 最近、特にバロック音楽などで陽の目をみるようになりましたが、「裏声」で歌う歌唱法のこと(特にカウンター・テナーと呼ばれる人たち)を「ファルセット」というのです。

さて、お料理に詳しい方は「サーロイン」の部分の肉をフランス語では「faux-filet(フォー・フィレ)」と呼ぶのはご存じでしょう。文字通り訳せば「にせヒレ肉」ということになります。そのほか、少し難しい語ですが、「fallacious(虚偽の)」という形容詞は哲学っぽい文献などでよくお目にかかります。

ところで、英語の綴りに l の文字があるのに、フランス語では l にあたるところが u になっているのにお気づきでしょうか? これは中世、フランス語から英語に伝わった語が、英語では現代に至るまでその音を保存しているのに対して、フランス語は訳ありで(それはまた今度の機会に)非常に音声変化の速い言語であったため、その後の時代に発音が変化して、l が u の音に変わってしまったのです。

実際 l の音は u に変わりやすく、ブラジルのポルトガル語では Brasilを「ブラジウ」、papelを「パペウ」と発音します。あのロナウジーニョも綴りは Ronaldinho です。私見では、アメリカ英語の l もかなり u に近い音になっている感じがします。テレビ番組かなにかで「アンビリバボー」と書いてあったのを見かけた気がします。これはその証拠ですね。実際の綴りは unbelievable ですから。

猪浦 道夫 翻訳家、ポリグロット外国語研究所代表

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いのうら みちお / Michio Inoura

1983年、イタリア国費留学生としてローマ大学留学。1986年、東京外国語大学大学院(ロマンス言語学研究科)修了。1989年に、株式会社ポリグロットを設立し、50カ国語の翻訳および20カ国語の語学研修事業に従事。1991年以降は、野村證券、旧日本興業銀行、ブリヂストン、キヤノン、ソニーなど、一部上場企業で、海外赴任者向け語学研修講師を務め、大好評を得る。2000年以降は、7カ国語のカリスマ語学教師として、「TVG(超速習)セミナー」など膨大な数のセミナーを個人学習者向けにも主催し、門下からはポリグロット(複数言語翻訳者)を多く輩出している。主な著書に『13カ国語トラベル会話』(共著、カルトブルー)、『3語で話せるスペイン語会話』(サンマーク出版)、『語学で身を立てる』(集英社)など。

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