虫歯の人が妄信してしまう危険な歯科医5例 インプラントが「骨を突き抜ける」ケースも

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歯医者や歯科衛生士の「自費売り上げ」をグラフにして競い合わせたり、一定のノルマを課して、給料に反映させている歯科医院もある。これでは、一般的な会社の営業部門と変わらない。

ある歯科医院の院長は、経営コンサルタントの提案を受けて、「予防歯科」として自費の「リスク管理検査」を患者に勧めた結果、売り上げが500万円上がった、と誇らしげに語っていた。

この歯医者の関心は、患者の虫歯や歯周病を予防することより、自院の売り上げにあるらしい。

「予防歯科」自体は北欧などで実績があり、患者にとってメリットが大きいだけに、巧妙な手口とも言える。

case.5 「短期間」「手軽さ」の重い代償

歯科医療のトラブルを手がける高梨滋雄弁護士は、インプラントや矯正治療で、問題が起きるケースに共通した「傾向」があると警鐘を鳴らす。

「ワンデー◯◯のように、短期間、手軽さ、をセールストークにしている歯科医院の治療で、問題が続出しています。たとえば、インプラントの治療は3カ月から6カ月間かけて顎の骨に結合する時間が必要ですが、それを抜歯、インプラントの手術、仮歯装着まで、手術当日にやってしまう。忙しい人には魅力的に映るかもしれませんが、生理学的にも無理があるので、インプラントの脱落や、感染が起きるなど、リスクが伴う治療法です」

こうした歯科医院は、ホームページで「その日のうちに理想の歯が手に入る」などと、メリットを強調しているが、高梨弁護士が指摘しているリスクについての記述は見当たらない。

今年6月に改正された医療法では、患者の体験談を広告として使用することを禁じているが、それも堂々と掲載している。コンプライアンスに欠けた歯医者が、安全な医療を行っているのか疑問だ。

一方、矯正治療でも「その日のうちに綺麗な歯並びになる」という歯科医院が乱立するようになった。本来は、年単位でゆっくりと歯列を動かしていくのが、矯正治療の基本。それが、なぜ1日で可能なのか?

短期間の矯正の一つが、セラミックのクラウン(被せ物)を装着して、整った歯並びに見せてしまう「セラミック矯正」。

取材チームのスタッフが、全国展開しているクリニックを訪ねて、歯医者に無料のカウセリングを受けてみた。

「1回目は、歯を削って形を整え“中の神経を取って”そこに仮歯を入れます。2回目は仮歯の調整と神経の治療。3回目は土台をつけて型取り。4回目でセラミックを被せて完成です」

『やってはいけない歯科治療』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

「その日のうちに」と謳っているのは、仮歯の状態だった。実際は4回の通院で約1カ月かかるし、歯列自体は変わらない。それに、歯の神経を抜くと確実に寿命が短くなる。

歯医者の説明が終わると、カウンセラーの女性に交代して契約を促される。

「オールセラミックの定価は15万円のところ、キャンペーンで20%オフなので12万円です。これは初めて来た患者さんだけの特典です」

「セラミック矯正」は、美容外科グループが歯科分野に参入して以降、一気に広まった。ただし、噛み合わせなどのトラブルで、満足に食事ができないケースも報告されており、健康な歯を大きく削り神経を抜く手法を疑問視する矯正専門医は多い。

岩澤 倫彦 ジャーナリスト

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いわさわ みちひこ / Michihiko Iwasawa

1966年、北海道・札幌生まれ。ジャーナリスト、ドキュメンタリー作家。報道番組ディレクターとして救急医療、脳死臓器移植などのテーマに携わり、「血液製剤のC型肝炎ウィルス混入」スクープで、新聞協会賞、米・ピーボディ賞。2016年、関西テレビ「ザ・ドキュメント 岐路に立つ胃がん検診」を監督。2020年4月、『やってはいけない、がん治療』(世界文化社)を刊行。近著に『がん「エセ医療」の罠』(文春新書)。

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