日銀は下手に動けば信頼が揺らぎかねない 金融政策決定会合で「重大な決断」はあるのか

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一方、銀行など金融機関の利益が目立って減少しているわけではない。また、日銀短観の調査や預金や貸出の動向などからも、銀行の融資姿勢が厳しくなっているという兆候はなく、こうした点では、副作用はほとんど見られていない。銀行の財務状況をモニターする立場にある日銀が、市場関係者よりも多くの情報を持っており、それを理由に副作用を重視し始めている、ということなのかもしれない。

日銀が「調整」と称して動けば、金融政策信認低下のリスク

だが、副作用の判断基準があいまいなままであれば、副作用への対処が妥当であるかが、かなり不明確になる可能性がある。

仮にYCCの見直しが実現して、今後10年金利の誘導目標の上昇を容認すれば、円高期待を強めるなど金融引き締め的に作用する可能性がある。観測報道によれば、「副作用軽減の政策は、出口政策とは異なることが明示される」という。もしそうだとするならば、金融引き締めとなる金利引き上げのデメリットよりも、副作用緩和というメリットのほうが大きいということを、日銀ははっきりと説明することができるのだろうか?

今後検討するとされる、長期金利上昇を容認するだけでは、2%インフレの早期実現が難しくなっている中で、政策変更の正当性を説明することは難しいのではないか。このため、仮に2018年末にかけて、長期ゾーンの金利引き上げを行うとしても、もう1つの政策ツールである短期金利の引き上げの条件として「2%インフレ実現に向けて、より明確かつ強固なコミットメントを行う」などの緩和強化策も同時に実現する可能性がある。

真偽が不確かな観測記事の段階で、今後の日銀の金融政策が金融市場に及ぼす影響を予想するのは難しい。しかし、金融システムへの配慮を理由にして、「調整」と称して金融緩和政策を弱めることは、2%インフレ目標へのコミットメントが弱まり、金融政策への信認を低下させかねない。2期目となった「黒田日銀」において、早期のインフレ目標実現を目指す姿勢がさらに弱まっているとの疑念が、今後高まるおそれがある。

2006、2007年に日銀がほぼゼロインフレ下で利上げを始めたときには、当時の不動産市況の上昇などが副作用とされ、利上げの理由として挙げられていた。当時と現在では異なる部分もあるが、明確になっているようにはみえない「副作用」を重視しつつある最近の日銀に、当時と同様の危うさを感じるのは筆者の杞憂だろうか?

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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