プログラミング教育必修化に漂う大きな不安 このままでは確実に失敗し、世界に後れる

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◆課題① 「プログラミング」という教科(科目)があるわけではない

小学校でプログラミング教育を必修化するといっても、コンピュータやプログラミングに関する新しい教科が設けられるわけではありません。プログラミングは、「算数」「理科」「総合的な学習」の時間など、「すでにある教科」の中に組み込んで教えることになっています。

たとえば、「1+2+3+……+100」という計算は、単純に「1+2+3+……」と順に足していくと、非常に時間がかかります。このとき、「100+99+98+……+1」と逆に並べた式を用意して、最初の式のそれぞれの項と足していくと「101+101+101+……+101」という式が100でき、これを2で割れば答えが出ます。すなわち、

1+2+3+……+100=(101×100)÷2

です。この「1から100まで頑張って計算しないで、何とかラクをして解こう」というのは、論理的思考の、複雑な過程を単純化する側面のひとつです。

こうした、物事を整理して考える力(論理的思考力)を、「算数、国語、理科、社会、音楽、学級活動などでも伸ばしていく」というのが小学校でのプログラミング教育です。ですが、どの学年の、どの教科で、どれくらいの時間を費やすのかなど、具体的な導入方法は各学校の判断、裁量に任されています。そのため、学習レベルや実施時間など、学校ごとに差が出る懸念があります。

現場の教員から不安の声が上がっている

◆課題② 教員の多くがプログラミングを理解していない

プログラミング教育の必修化によって、教員の数や指導スキルの不足が問題視されています。小学校の教員の多くは、プログラミングになじみがありません。文系学部出身だったり、機械が苦手だったりして、プログラミングに触れる機会のなかった教員は少なくないはずです。文部科学省も、具体的な授業の内容を示していないのが現状ですから、現場の教員からは、「自分が指導をするとなると、より深く勉強をして臨まないといけない」という不安の声が上がっています。

2020年度から、小学校では、新しい「学習指導要領」が施行されます。現在5、6年生で必修となっている「外国語活動」(英語)が前倒しされ、3、4年生で必修になるなど、小学校は大きな変化に対応しなければなりません。「外国語活動」だけでも手一杯なのに、その上「プログラミング教育」が加わり、しかもその教え方は確立されておらず、プログラミング未経験の先生が教えなければならないとなれば、現場が戸惑うのも無理はありません。

プログラミング教育を小学校1年生から必修化しているイギリスでは、教師へのプログラミング教育を行いました。民間企業のカリキュラムを教員が学習する教育訓練を実施したのです。日本でも今後は、研修制度の確立、ITスキルの高い教員の増員が図られると思いますが、現時点では、教員のプログラミングに対する理解度が低い状況です。

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