プログラミング教育必修化に漂う大きな不安 このままでは確実に失敗し、世界に後れる

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◆課題③ ICT(情報伝達技術)環境が整備されていない

小学校にタブレット端末やコンピュータがなければ、そもそも、プログラミング教育はできません。もちろん、コンピュータやタブレット等の端末を使わなくとも、前述したようにプログラミング的思考を身に付ける授業の方法を考えることは可能だと思います。しかしそれでは、「ITを使いこなせる人材」を育成することはできません。

文部科学省の「学校におけるICT環境整備の状況について」には、学校におけるICT環境の整備状況(2016年3月の実績)と目標値が示されています。

●教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数……6.2人/台(目標:3.6人/台)
●超高速インターネット接続率(30Mbps以上)…… 84.2%(目標:100%)
超高速インターネット接続率(100Mbps以上)…… 38 .4%(目標:100%)
●普通教室の校内LAN整備率……87.7%(目標:100%)
 普通教室の無線LAN整備率……26.1%(目標:100%)
●普通教室の電子黒板整備率……21.9%(目標:100%/1学級当たり1台)

実績と目標の差は大きく、学校におけるICT環境整備は崖っぷちです。国や自治体が実施してきたモデル校の取り組みを小学校全校に広げるには、時間も予算も間に合わないのが実情です。

教育の停滞は将来の国益を損なう

プログラミング教育の必修化によって、本当に教育効果を高めようとするならば、少なくとも、こうした課題をクリアする必要があるでしょう。さもなければ、必修化が成功する可能性は極めて低いと言わざるをえません。

『子どもの才能を引き出す最高の学びプログラミング教育』(あさ出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

先に紹介したイギリスや、今年で必修化10年を迎えるロシア、またマイクロソフトの支援を受け取り組んでいるエストニアのような国もあります。これ以上、世界に後れをとらないためにも、テコ入れは急務です。プログラミングスクールを経営する立場からいえば、「餅は餅屋に」というのが正直な気持ちです。

プログラミング教育必修化を含む今回の教育改革は、製造業(ハード)からコンテンツ産業(ソフト)へと、日本の産業のあり方を変えていくための、一連の流れに位置付くものです。Google、iPhone、Facebookのようなイノベーションが将来、この国から生まれるためにも、質の高いプログラミング教育を子どもたちが受けられることを願ってやみません。

石嶋 洋平 ミスターフュージョン代表取締役、サウンドアーティスト

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いしじま ようへい / Yohei Ishijima

1981年生まれ。2009年に株式会社ミスターフュージョンを設立。有名アーティスト、有名企業のWebプロデュースや企業のアクセス解析を行い、 幅広い業種業界でWebサイトの改善実績を持つ。また「すべてのヒトに創るチカラを」をビジョンとして、 小学生向けプログラミング教室「プロスタキッズ」を全国に展開。2018年8月「東京花火大祭」では仕掛け人として 世界で初めて子どもたちがプログラミングした花火の打ち上げを成功させた。著書は『子どもの才能を引き出す最高の学びプログラミング教育』(あさ出版)など他2冊。

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