さらに「漢字の読み方なんかを間違えると、『モノを知らない』『教養がない』とか、何かというとすぐにバカにしてくるんです」とタイシさん。大人になってからは、とにかく家で過ごすことが苦痛だった。仕事が終わった後、深夜まで街中で時間をつぶしたり、失業したことを言えずに、毎朝自宅を出て終日図書館で過ごしたりしたこともあったという。そして数年前、ついに家出同然に実家を飛び出した。現在は都内の家賃約5万円のシェアハウスで暮らしている。
今年6月、走行中の東海道新幹線で、男が無差別に乗客に襲いかかる事件が起きた。このとき、犯人の父親が取材に対して「(息子は)今は家族ではない」「変わった子」などと答えたことが、一部で批判を浴びた。タイシさんに言わせると、「もし僕が事件を起こしたら、僕の父親も同じことを言いそうです」。
一方で、休職して以降、シェアハウスの家賃約5万円は両親が負担しているのだという。このあたりの親子の距離感も、私にはちょっと理解ができなかった。
「僕のことをダメな人間だと思ってますよね」
大学には奨学金を借りて通ったが、現在の残額がいくらかは「よくわかりません。多分半分くらいは返したと思うんですが……」と首をひねる。勤務先の休職期限についてもよくわからない、とのこと。私が就業規則に書いてあるはずだと言うと「ちゃんと読んだことがないのでわかりません」と言うのだ。
自分のことに関心がないのか、それとも取材を警戒して答えをはぐらかしているのか――。
大学を中退したことも、仕事が続かないことも「僕が悪いんです」と言いながら、「僕らロスジェネ世代には、フルタイムで働いても生活できないような仕事しかない」と世代論を持ち出したりする。
「大学を卒業した同級生も、会社が倒産したり、転職先がブラック企業だったりして仕事を転々としてます。ロスジェネ世代には本当にそういう人が多いです」
ロスジェネ世代――。1970~1980年代前半に生まれ、就職氷河期に社会人になった世代を指すとされる。この世代の中でも有効求人倍率や就職率に差はあったが、私自身、この時代に就職活動を経験したので、タイシさんが時代を恨みたくなる気持ちは少し理解できた。
とはいえ、就職が厳しいからこそ、せっかく入学した大学はなんとか卒業したほうがよかったのではないか。傷病手当金を受けている以上、現状について勤務先に報告くらいはしたほうがよいのではないか――。そんなふうに指摘すると、「僕のことをダメな人間だと思ってますよね」と返されてしまった。
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