「40歳正社員・月給18万円」は恵まれている? 上司のメールを無視する「休職中」男性の胸中

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取材中、タイシさんは何度も左手首に付けた腕時計型の端末「Apple Watch」を操作していた。主にツイッターなどをチェックしている。そして、ツイッターでは同じロスジェネ世代の人たちと、「社会や経済についての意見」を交わすのだという。

「(働き方改革などと言っても)決して(ロスジェネ世代の)アラフォー世代を採用しようとはしない」「(両親たちの言うことは)話半分にしか聞きません。あなたたちがつくった氷河(※原文ママ)を私たちは必死で生きている」「転職先の社長から『君もがんばり次第で月給18万円になれるよ』って言われたw」――。

タイシさんの話を聞き、ツイッターで「#ロスジェネ世代」を検索してみた。そこは想像以上に、当事者と思われる人たちの閉塞感と、「恵まれた世代」への怨嗟の声に満ちていた。

月給18万円を目指して頑張れという社長――。タイシさんの月給はまさに約18万円である(現在は傷病手当金の約12万円)。冒頭にも記したが、この金額を聞いたとき私は「比較的恵まれている」と感じた。ということは、私の感覚も麻痺しているのかもしれない。

”絶望の連鎖”に陥ることを警戒

タイシさんはこう主張する。

「フルタイムでちゃんと働いたら、年収300万円くらいは欲しいです。そうしたら、僕の場合、趣味の音楽におカネをかけることだってできる。仮定の話ではありますが、そうやって気持ちの余裕ができたら、職場でしかられたり、人間関係がうまくいかなくても、もう少し穏やかな気持ちになることができて、仕事だって頑張って続けることができたかもしれないと思うんです」

タイシさんは、勤務先からの督促に返事をすることが怖いと言っていた。返事をすれば、確実に退職を促される。そうなれば、新たに仕事を探さなくてはならない。しかし、きっとろくな仕事がないだろう。そのことを、タイシさんは痛いほどわかっているのだ。

タイシさんが怖いのは、どうあがいても抜け出すことができない“絶望の連鎖”なのではないか。そう考えると、少し彼の心持ちが理解できた気がした。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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