「荻窪ラーメン」50年の名店が迎えた最後の日 一代で築いた「中華三益」は淡々と幕を閉じた

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常連さんや地域の人々、かつて通っていたお客さんまでもが次々とひっきりなしにお店を訪れ、最後の1杯を食べ、寺田さんにお礼やねぎらいの言葉をかける。

メニュー(筆者撮影)

小学生の頃から同店に40年以上も通い続けた作家の印南敦史氏はこう語る。

「小学校の頃、嫌で嫌でたまらなかった剣道の稽古の帰りに食べる三益のラーメンがおいしくて。その頃から通っています。おじさんはいつもと全然変わらないんですが、常連がしんみりしてしまいますね」(印南さん)

後継者がいない

寺田さんから後継者の話は聞いたことがない。

23年前に奥様を亡くされた後も弟子は取っておらず、近所の方に手伝いに来てもらって営業を続けていた。「東池袋大勝軒」の山岸一雄さんは奥様を亡くされた後は弟子を取り、孫弟子やひ孫弟子も入れると今や300人以上ともいわれ、大勝軒のDNAがラーメン界に受け継がれている。

寺田さん(筆者撮影)

一方、「三益」のように一代でひっそり閉店していくお店も数多いのが個人経営の中華料理店、ラーメン店の現実だ。厚生労働省が2016年に発表した「飲食店営業(中華料理店)の実態と経営改善の方策」によれば、個人経営の中華店の経営者の年齢は50歳以上で74.3%にも上る。5年前は同72%だったので、さらに高齢化した。

「後継者がいない」と答えたお店は何と全体の69.1%に上った。これも5年前の62%から上昇。店主の高齢化が進み、後継者探しも難しく、長時間労働となると閉店もやむなし。実数を把握できないが、2000軒以上のラーメン店・中華料理店を食べ歩いている筆者から見ても、「町中華」は確実に町から減ってきている。

「家業」という制度自体が崩壊しつつある今、後継者不足というよりはそもそも自分の代で終わりにしようと決心している店主も多いだろう。50年の歴史に幕を閉じた「中華 三益」はそれを象徴しているようだ。

一代でひっそり閉店していくお店も数多い(筆者撮影)

寺田さんは昨今のラーメンブームについてこう話している。

「自分のお店だけお客さんが来ていればいいのか、と言いたい。お客さんはあっちが旨い、こっちも旨い、と毎日いろんなお店で旨いものを食べてもらえばいい。共存共栄の考えが大事だよ」(寺田さん)

井手隊長 ラーメンライター/ミュージシャン

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いでたいちょう / Idetaicho

全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」「AERAdot.」等の連載のほか、コンテスト審査員、番組・イベントMCなどで活躍中。近年はラーメンの「1000円の壁」問題や「町中華の衰退事情」など、ラーメン業界をめぐる現状を精力的に取材。テレビ・ネット番組への出演は「羽鳥慎一モーニングショー」「ABEMA的ニュースショー」「熱狂マニアさん!」「5時に夢中!」など多数。その他、ミュージシャンとして、サザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」や、昭和歌謡・オールディーズユニット「フカイデカフェ」でも活動。

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