性暴力「後遺症」に悩む30代女性を救った告白 「家族との対話」が次の一歩につながった
抑圧されていた記憶は、ふとしたことでよみがえる。
「たとえば男の人と仲良くなったとして、酔っぱらってふざけた感じで胸を触られたりすると、それが引き金になっちゃう」
ふとしたことでよみがえってくる昔の記憶。痛みを伴う記憶だが、今の彩さんは思い出して良かったと思っている。なぜなら、理由がわかったからだ。
「大きな壁に引き出しがたくさんついていて、それが全部崩れ落ちてくるような感じ。夜寝ようとすると、そういう大きくて暗い巨大な山が崩れてくるような感覚がありました。それが私の10代」
あの頃、なぜあんなに苦しかったのか。夜中にパニックになったのか。過去を思い出したことで原因がわかった。複数の性被害。母親の対応、次兄からの暴力。自分の傷つきを傷つきと理解できるまでに、たくさんの時間がかかった。
カウンセリングに通った後に訪れた精神科では、医師から「それは本当の記憶なの?」と聞かれショックを受けたこともあった。それでも自助グループやインナーチャイルドワークに通い、自分のケアを続けてきた。繰り返し読んだのは、性暴力のトラウマケアを専門とする森田ゆりさんの本。森田さんの『癒しのエンパワメント 性虐待からの回復ガイド』(築地書館/2002年)には、こんな文章がある。
悩みを抱えていたのは彩さんだけじゃなかった
今は実家を離れ、関東圏の自然の多い町で暮らしている。都心から帰ってきて電車を降りると木々の匂いがする。
性被害を家族に打ち明けたとき、知ったことがある。彩さんの長兄は、中学生の頃にいじめを受けていたことを教えてくれた。口数は少なかったが、当時はささいなことで弟妹を怒鳴ることがあった長兄。そのピリピリした姿を見て、次兄も荒れていたのかもしれない。
母は、自分も幼かった頃に親戚から性暴力を受けたことがあると言った。「こんなことを言ったのは、あんたが初めて」と。うつ病で入院していた祖母は、母に向かって「あんたなんか生まなきゃよかった」と言ったという。母もまた、沈黙を強いられてきた子どもだった。
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