性暴力「後遺症」に悩む30代女性を救った告白 「家族との対話」が次の一歩につながった

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家族それぞれが感情を抑圧し、彩さんにもそれを強いてきた。いちばん小さかった彩さんが感情のはけ口にされることもあった。今はそれがわかる。

「自分のことを大事にできるのは自分だけ。親のせいにしていても親は先に死ぬわけだし。強くならなければいけないというのもあるけれど、自分の弱さとか嫌なところとか、そういうのを自分なりに受け止めていけるようにならなきゃって考えるようになった」

でも――。

「なんでこんなに強くならないといけないんだろうっていう気持ちもある」

「歌うこと」が彼女の救いになった

華奢な体に大きなギターを持って、彩さんは歌う。低く染み透る声で。暴力のない世界。誰かの傷みを、痛みと認めてもらえる世界。そんな世界を想像しながら歌う。

取材を受けることができるようになったのは、「自分の中で父性と母性が育っているからだと思う」と彩さんは言う。怖がっている自分を「怖いね」となだめ、ケアしてあげる「母性」。ライブ活動など外との接点を持ったり、自分のイヤなことはイヤだと自信を持って言えたりする「父性」。

ここにたどり着くまで、呆れるほど長かった。今の状態で、もう一度生まれ直したいと思うこともある。

「心がもやもやするとき、曲を作ります。私の場合はいつも難産。でもそうやって前に進めただけ良かったと思う。それに歌は体が楽器だから、健康には気を遣うし。そういう面でも音楽をやっていて良かったかな」

ステージに立つ彩さんの両足はしっかり地についている。歌うことをこれからも続けていく。

小川 たまか ライター

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おがわ たまか / Tamaka Ogawa

1980年、東京都出身。ライター。文系大学院卒業後、フリーライターを経て2008年から編集プロダクション取締役。2018年4月に独立し、再びフリーライターに。2015年頃から主に性暴力の取材に注力。Yahoo!ニュース個人「小川たまかのたまたま生きてる」などで執筆。『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(タバブックス)は初の著書。

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