性暴力「後遺症」に悩む30代女性を救った告白 「家族との対話」が次の一歩につながった
彩さんの語る過去には、家族が多く登場する。けれどその多くは、つらい思い出だ。母に対しても、ずっと心を開くことができなかった。
風邪を引いても「大丈夫?」とは言ってもらえず、「体力がないからよ」と言われる。生理痛がひどくても「神経質すぎる」と突き放される。中学生にもなると体の不調を相談しなくなり、黙って家の薬を飲んだり、一人で医者に行くようになった。大学に通えなくなったことも家族には言えなかった。
「男兄弟が何人かいて末っ子の女の子だから大事にされたでしょってよく言われるんですけど、全然違うんです。母親はそんな感じだったし、2番目の兄からはよく殴られていました」
嫌なことがあっても、その気持ちを受け止めてもらえない。ただ、自分の考える解決策をぶつけてくるだけ。母も家族もそんな存在だった。
でも、カウンセラーの女性の働きかけで、そんな母が少し変わった。カウンセラーに間に入ってもらい、3人での面談を何回か繰り返したあとのこと。
「大学を休学したいってやっと言えたとき、父が最初は反対したんです。でも、母が『彩が初めて甘えてるんだから、甘えさせてあげたら。子ども時代のやり直しをさせてあげたら』って。初めてそういうことを言ってもらえた」
ちゃんと寝て食べて、英気を養ってからまたこれからのことを考えようと思った。休学の1年間は、ほとんど寝たきりで記憶がない。
1年後に復学。またここからが試練だった。
中学に上がるまで「次兄の暴力」を恐れていた
大学に復帰してすぐ、授業で調査研究をすることになった。テーマはデートDV。「大声で怒鳴られる」「ものをぶつけられる」「つねに相手の様子をうかがっている」など調査項目を見ているうちに思った。こういうことをされた人をよく知っている。
それは、子どもの頃の自分だ――。小学生の頃、長兄はひとり部屋で、彩さんと次兄は同じ部屋を使っていた。体格のいい次兄が、小柄な彩さんにプロレス技をかける。嫌がってもやめてもらえない。兄がいつ暴力を仕掛けてくるかわからず、いつも機嫌をうかがっていた。夜、2段ベッドで寝ていると、いきなりお腹を殴られることも頻繁だった。兄の寝息が聞こえてくるまで眠ることができなかったため、寝るときにどのぐらい呼吸をしていいかもわからない。
あるとき、プロレス技の延長で、電気アンマ(両足を持ち、足で相手の股間を揺らし続ける行為)をされたこともある。小学校の廊下で、同級生の見ている前でいきなり後ろから浣腸をされたこともあった。体が爆発するような衝撃と、消えてしまいたいほどの恥ずかしさ。当時のことを思い出させる長い廊下は今でも苦手だ。
普段から彩さんを軽んじていた次兄。当時小学生だった次兄が、それを性的なことと自覚していたかはわからない。見ていたバラエティー番組の影響もあり「ふざけただけ」かもしれない。けれど彩さんにとっては、紛れもなく性暴力だった。
中学に上がる前に引っ越しをして兄と別の部屋になると、暴力はぴたりとやんだ。
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