キャプテン長谷部がW杯で見せた覚悟・統率力

「0-1で黒星OK」に賭けた他力本願戦略の胸中

試合中ボール回しに徹した長谷部(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

「マコ(長谷部)がファーストタッチして、セカンドタッチ、サードタッチしてから西野さんのメッセージがだいたい読めましたよね」とベンチで見ていた本田も「リスクを冒して攻めに行かない」という意図を瞬時に受け取った。

ベンチにいる選手が理解できるのだから、ピッチ上の面々はより明確に狙いを汲み取ったことだろう。

山口蛍(セレッソ大阪)も「ハセさんが入った時にある程度、みんな分かったと思います」と述懐する通り、彼らはみな「現状維持」の方向へ突き進んだ。

しかしながら、試合時間はまだ10分弱残されている。その間にセネガルが同点に追いつかないとも限らない。2017年U-20ワールドカップ(韓国)の日本対イタリア戦(2-2で引き分け)でも見られた通り、同点のまま終わらせれば両者ともに次のラウンドに進める場合には時間稼ぎのボール回しもあり得る。

だが、自分たちが負けていて、完全に他力本願なのにあえて攻めに行かないケースは確かに前代未聞と言っていい。西野監督も「負けている状況自体をキープする自分というのも納得いかないし、不本意を選択もしている」と分かっていたが、攻めに出て0-2にされるリスクを冒すことはしなかった。

課せられた仕事を冷徹なまでに完遂

そんな指揮官の意向、それを忠実に実行する日本の選手たちに対し、4万2000人超が集結したボルゴグラード・アレナのスタンドからは凄まじいブーイングを浴びせられた。

わざわざチケットを買って訪れたファンにしてみれば「攻める意思を失ったらサッカーではない」という不満や怒りが湧いて当然だろう。実際、ベンチ選手の間でも「攻めに行かないといけない」という話も出たという。

さまざまな感情が渦巻く中、スタジアムにいるすべての人々、そして試合を見ている世界中の人々に共通認識を持たせることは不可能に近い。それを百も承知のうえで、キャプテン・長谷部は絶対にブレることなく「イエローをもらわずに0-1をキープする」という仕事を冷徹なまでにピッチ上の11人に遂行させた。

自分自身も複雑な感情はもちろんあったはずだが、それを押し殺し、ただひたすら日本のベスト16進出だけを信じ、タイムアップの瞬間までボールを回し続けた。まさに覚悟と信念を持った立ち振る舞いこそ、8年間キャプテンマークを巻き続けた男のプロフェッショナリズムなのだろう。

西野監督が日本代表の命運を左右する大きな岐路に立たされた時、真っ先に長谷部を選んだのも、そういった時に絶対に迷いを見せない男だから。肝の据わり方が今回のポーランド戦ではひと際光っていた。

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