大学の先生には、なぜ「留守」が多いのか 「大学教員」以前に「研究者」? 仕事としての「研究」のリアル

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研究者は「発見をする」だけをしているわけではない

さて、研究者というのは何をする仕事か。それは一言でいえば、何か新しい発見や発明をして、それを論文にして世の中に発表する仕事だ。

研究者は何よりも自分の知的興味に基づいて研究をしているわけだが、これが「お仕事」である以上は、自分が納得し、わかったつもりになったら終わり、というわけにはいかない

それはそれですばらしいことだと個人的には思うが、職業としては成立しないだろう。

前に少し書いたけれども、出発点である「発見」の後には次のようなプロセスが待っている。

①アイデアをちゃんと数学の形式にのっとって表現し、細部が正しいことを確かめて論理を詰める

②文章として読みやすいように、また全体の論旨が明確になるように論文を改訂する

③論文を専門誌に掲載してもらうために、投稿する(権威ある専門誌に載った論文が、その学者の「業績」としてカウントされる)。 ここで掲載を断られたら、お断りの手紙に書いてあるコメント(文句)を参考にまた改定したうえで、ほかの専門誌に送る(もしくは満足いく投稿先すべてに断られたら、お蔵入りにする)

④専門誌に送る前の(もしくは並行する)いろいろな機会に、論文を発表・宣伝する。具体的には、関係のある研究をしている学者に論文を送ってコメントをもらったり、大学で定期的に行われるセミナー(研究発表の会)や 時々開かれるカンファレンスで報告したりする。

 

研究というと「発見をする」だけをしているように見えるかもしれないが、幸か不幸か時間的には研究の「仕事」の大部分はそれ以外のことに費やされているわけだ。

ちなみに、この原稿は④の目的でフィラデルフィアにあるペンシルバニア大学というところへ出張する、行きの飛行機の中で書いている(追記:今回の出張ではその後ニューヨーク、それからノースカロライナ州のデューク大学に行って、帰りの飛行機で校正をしています)

学者になったことには、おおむね満足しているのだけれど、ひとつ「こんなはずじゃなかった!」と思うのは出張の多さだ。

経済理論なんて紙と鉛筆でできるから、家とか大学とか、せいぜい喫茶店で何か考えていればいいんだろうと思っていたのだが、この予想は見事に裏切られた。ほかの学者と意見を交換したり自分の研究成果を発表(と宣伝!)したりするために、移動ばっかりしているのだ。

著者撮影:とはいえ、出張に行ってしまえば、そこで美しい風景や新たな出会いが嬉しい。マーストリヒトの夏はとても美しかった

試しに今年(2013年)にやる/やった研究発表のための出張先を数えてみたら25カ所くらいだった。大体月に2回くらいの頻度ということになる。

移動の多い職業と比べればマシだろうと思うけど、僕は本来ものぐさ(というかひきこもり)でなるべく家や近所にいたいタイプなので、これには参った。しかもアメリカはバカみたいに大きいので、国内の出張であっても大抵は飛行機で行くことになる。

ちなみに僕みたいな小物学者の場合は、出張のフライトは基本エコノミークラスだ。

次ページいや、実は小物じゃなくてもエコノミーだ
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