ヒットの裏に新世代主婦?Mart族の嗅覚 「自分主導」でブームを作り出す主婦たち

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想定外?ビーズブームの発生経路

それで、当時、アパレルのプレスなどの間で注目エリアになっていた、港北東急の主婦たちを集めて、ヒアリングを進めました。そこで話題に出てきたのが、ビーズアクセサリーの手作りブーム。

――ビーズですか。

ビーズといっても、これまでのものと、それにかける熱がまったく違うのです。まず彼女たちは、百貨店やファッションビルのショップを回って、売り物のファッションアクセサリーを観察する。それから、どうすればこういうものができるかを店頭で考え、家に帰って作るんです。自分たちで編み出した作り方を皆でシェアしたり、素材を変えてみたりして、楽しむのだそうです。

ビーズアクセというと、まずテキスト本があって、やさしいものからだんだん難易度を上げるとか、季節のイベントをモチーフに作るとか、そういう流れだと想像するじゃないですか。でも、まったく違う。彼女たちに「スキルアップしたい」という気持ちはなく、「人に見せるために作る」という気持ちが圧倒的に先行している。身近ではやっているモチーフをその時々で追っていくので、教本を出しているようなビーズの先生もついて行けないんですよ。

浅草橋にあるようなビーズパーツの店のオーナーさんでも、彼女たちの動きが読めない。なにせ彼女たちの関心は世間の流行でなく、自分たちが欲しいアクセに向いていますから。パーツショップ事情なんて知ったこっちゃないと(笑)。しまいには困り果てたメーカーさんがうちの編集部に来て、彼女たちの話をじかに聞いていました。

――つまり、業界側が主導するのではなく、一般の主婦がイニシアチブを持っているブームだったわけですね。

そうです。その頃に出したビーズのムック本が、累計で250万部売れ、銀座の三越で有料催事をしたことがありました。フロアの半分をビーズ作家の先生の作品、もう半分を素人ビーズの作品にしたのですが、そこでも人が滞在するのは、やっぱり素人のほうなのです。これこそ、主婦の琴線に触れる情報なのだと気づきました。

”コミュニケーションツール”として使えるか

ビーズに限ったことではありません。結局、必要とされているのは、主婦たちがコミュニケーションのツールとして使えるものです。たとえば、調査で家庭訪問をすると、柔軟剤のかわいいボトルや、色鮮やかな調理器具などが飾ってある家がたくさんあると気づきます。主婦にとっては、そういった飾れる日用雑貨が大事なんですね。使ううえでの利便性だけでなく、遊びに来たお友達に、どう自分の生活をプレゼンできるかという点が重要視されている。

――ここまで強いこだわりが生まれてくる背景には、何があるのでしょうか。

地域コミュニティで孤立してしまうことに対する危機感ではないでしょうか。OLであれば、地域を離れても会社の同僚や友人のコミュニティがある。でも主婦だとそうはいきません。コミュニティから疎遠になると、たとえば託児所はどこがいいとか、病院はどこがいいとか、生活に必要な重要情報からも遠ざかってしまう可能性があります。どうしても地域になじめず、主婦がプチうつになってしまうという例もあったのです。

『Mart』を創刊する前の主婦雑誌といえば、節約・倹約とか、お掃除の極意といった内容が主でした。それも大事な情報ですが、実はそれって、主婦コミュニティの中であまり盛り上がらない話題なのですね。それよりも、そのビーズどうやって作ったの? ダウニーのピンクのキャップのものはどこにあったの? とか、そんな話題を楽しんでいる。そこをフォローする雑誌をと思い、『Mart』を創りました。

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