40歳、供養業から農林業に到達した男の悟り

職業による自己実現が人生の目標じゃない

「自分が求めるのは“農ある暮らし”。自産自消ですね。商売として成立させるほどの気力は持てないなと」

この道1本だけではいかないと割り切って、貸し農園の仕事だけに絞った。

そこで次に目を向けたのが狩猟だった。農業は獣害が深刻だが、狩猟免許を持つ人の高齢化は加速している。里に降りてくる鹿やイノシシを斃すことを本業にできないか? 狩猟免許取得の勉強を進めながら、猟師に同行して解体まで経験し、心情的な問題はクリアできると確認できた。しかし、同時にビジネス化の難しさも猟師から聞いた。自分で解体した食肉を流通させるには保健所の許可を得た解体施設が欠かせない。公的な施設はなく、個人で持つには相当な初期投資と時間が必要になる。ちょっと現実的ではない。狩猟免許の勉強も継続中だが、すでに趣味の範囲と割り切っている。

そして、今年の初めから本業化に向けて動いているのは林業だ。狩猟で山に入ったとき、ほとんど放置されている人工林が多いことを知った。調べてみると国産よりも輸入材のほうが安く手に入るようになって以来、林業全体の斜陽化が止まらないらしい。

「山での林業は厳しい状況ですが、プロの話を聞いていると、最近は住宅地で伐採を頼まれるケースがすごく増えているんですよ。空き家などで造園業の人では手が出せないほど伸びきった危険木を伐採するわけです。林業に携わる人が減って高齢化しているいま、新しいニーズに対応できる人は少なくて、これならいけそうやぞと」

フリーランスとして伐採の仕事をしている

いま山崎さんは、懇意にしている林業会社に行って日当をもらいながら伐採の仕事をしている。従業員ではなく、フリーランスとしての参加だ。住宅街での危険木伐採の依頼も個人事業者として請け負い、仲間が必要な際はその都度ヘルプを頼む。そんな対等な関係が築ける仲間と出会えたのも本業として林業と向き合う動機になったのかもしれない。

本業は林業。それでいて、最近はこれまで培った仕事の腕も収入を補佐している。依頼されれば名刺やパンフレットのデザインを請け負うし、ネットショップ運営や広報PRの助言も行う。山崎さんの能力は林業や狩猟、農業の仲間から重宝がられ、自然と相談されるようになっていったという。

本業以外の仕事が増えるのは1次産業を追求する生き方に差し障りが出そうだが、山崎さんは「いや、でもやりたい方向はこれだったんですよ」と身を乗り出す。

「自分の究極のところでいえば、人が求めているところで自分は何ができるか、というところかなと最近気づいたんです。1次産業も含め、仲間と元気に何かしていることが幸せなんですよね」

少年期から青年期にかけて父から2度の愛のムチを受けて自分の本領を知り、父からの「守破離」を経て、現在は妻の協力を受けながら本領を磨く変化を高速で続けている。ここまで聞いて、山崎さんの多彩なキャリアの理由が少しわかった気がした。山崎さんの人生の目標みたいなものは、職業による自己実現とは違うところにあるんじゃないか。

最後にお決まりの「将来どうなりたいか」という質問をしたところ、山崎さんはやはり職業とは別の視点の答えをくれた。

「できれば日本のどこかの島に移住したい。そこで外国人が泊まれる民泊をやって家族と暮らしたいんですよ。そうしたら、子どもたちも大自然と国際感覚が同時に養えるでしょ。まあ、現実的には別荘くらいかも。古い家を買い取ってリノベーションしてね。そこにたまに友達家族も呼んだりしたら楽しいじゃないですか。そういう暮らしができれば」

それに続けて妻は「この人はね、人の集まる場所が作りたいんです」と言った。

そういうことなのかもしれない。

取材後、4人目のお子さんが生まれたという。

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