人材投入だけでは「知財戦略」は変えられない 「特許出願のプロ」だけでは戦えない時代

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そこでまず、神庭氏は知財部のメンバーに、「より事業に貢献するために必要な機能は何かを洗い出す」ことを宣言した。部内のリーダーたちと徹底的に議論を続けること約8カ月。神庭氏が議論に費やした時間はトータル150時間に及んだ。「リーダーたちは、おそらくその倍くらいは話し合っているだろう」(神庭氏)という。

そうした議論を経た結果、必要な機能として、「戦略策定」「知財力」「決めたことをやり遂げるPDCA」の3つを洗い出した。知財力とは、特許を効果的に活用する力、権利範囲を広げられるように特許を書く力などで、これらを強化していく方針を決めた。

しかし、根本的な考え方と行動を変えるには、時間が必要だった。

「戦略策定に時間を割きたかったので、メンバーに『出願業務は特許事務所に任せたら』と言ったんです。大反対に遭いました(笑)。でも、極端な言い方をすれば、企業で働く知財担当者は『出願のプロ』ではなく、『戦略のプロ』になるべきだと思うんです。事業を理解し、事業に成果をもたらす戦略を考えることにこそ、価値があると思うのです」(神庭氏)。

神庭氏は、自前だけにこだわらず、外部のリソースにも目を向けた。神庭氏自ら、筆者を含む人材紹介エージェントと会い、知財部の目指す方向とそのために必要な人材を説明し、知財戦略にたけた他社のトップタレントを年間で4名(うち管理職3名)も採用したのだ。いずれも「知財戦略によって事業に貢献する」という理念に共感し入社を決めてきた人物で、社内の優秀なリーダー陣とのシナジーが生まれることを期待してのチャレンジだった。

さらに神庭氏は組織体制も変更する。2017年7月に部署の中に、戦略策定を専門とするチームと、その戦略に沿った知財を出願権利化するチームを新たに作った。

「出願のプロ」から「戦略のプロ」への転換を

特許出願は相変わらず知財部の重要な業務であると同時に、知財戦略策定も重要性があるというメッセージを込めた。さらに知財の「評価」の考え方も変えた。戦略の有効性についての評価を加えたのだ。

具体的には、知財部門だけで評価を完結させるのではなく、研究開発部門、事業部門など関連部門との相互評価という要素を加えた。こうした取り組みによって、関連部門の打ち合わせに参加し、市場や顧客、競合他社の情報を取得したり、関連部門のキーマンとの関係構築を図ったりする、知財部員が増えてきた。

「組織を作り、仕組みを作ったことで、歯車は回り始めました。あとは魂を入れていく。改革にあたっては反発も起きましたが、個別に話すと理解してもらえるんです。だから、改革を口だけでなく、実際に動けるようになるために真っ先にやるべきことは、『どこを目指すのか』『なぜ目指すのか』の方針を明確にすることでした。そのために何をするかは次の段階。新たな組織が必要なら作る。組織を作っても、すぐにまた壁にぶつかるけれど、どこに向かっていくべきかさえわかっていれば、細かな課題はクリアしていけるものです」(神庭氏)。

神庭氏は新卒で入社後、フッ素技術加工について約9年間、研究開発に従事した後、米国に赴任。化学商品の営業・マーケティングに約5年間経験した。

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