稼ぎが少ない夫が家事を放棄する「深い理由」 「プライド」と「見栄」の狭間で揺れる男たち

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相談者さんのご家庭にかぎらず、若い世代でも実際には「男は仕事、女は家庭」という前提が意識の中にはあり、その結果、働く女性が増えても家事分担の不平等が改まらないのです。自分の力でコントロールできるかのように思われがちな意識ですが、変えるのは簡単なことではありません。

加えて、今回のご相談で注目したいのが、筒井先生がアメリカの研究成果として紹介している説です。筒井先生によれば、「『稼ぎ』によって男らしさ・男性の権威を表現することができない夫が、あえて家事をしないことで男性役割を維持しようとする」ことがあるそうです。ここでは〈男らしさ〉の補填仮説と呼ぶことにします。

性別分業に基づいた価値観が残る日本では、男性が〈男らしさ〉を証明するのに最も重要なことのひとつは、正規の職を得て、安定的な収入を得ることだと考えられます。相談者さんの夫は正規の職に就く過程にあるので、「男」として仕事と収入で証明できない〈男らしさ〉を補填しなければなりません。

「手際がわるい」「表面しか掃除できていない」「君の母親が甘やかしてきたからだ」と妻を批判し、「完璧な家事」をさせれば、〈男らしさ〉の証明になるだけではなく、妻に従順な〈女らしさ〉を強いることもできます。

子育てが加わったらどうなるのかという懸念については、もし、〈男らしさ〉の補填仮説が正しいとすれば、子どもの誕生をきっかけに夫が協力的になるとは考えられないでしょう。むしろ、「子育てをしないこと」によって、〈男らしさ〉を補おうとする危険性があります。

正規の職が得られれば、仕事の部分で不足していた〈男らしさ〉を補填する必要はなくなりますが、イデオロギー仮説をふまえれば、それで直ちに家事に協力的になるとは思えません。筒井先生の分析によれば、日本では、夫婦が同じ条件で働いて、同じぐらい稼いでいても、妻のほうが週に10時間も多く家事をしているそうです。

そもそもプライドとは何か

なぜ夫が家事をしないのかがわかっても、これからも一緒に暮らしていくうえでは、何の救いにもなりません。どうすれば少しでも状況が改善するのかを考えてみたいと思います。

男性学的な見地から非常に気になったのが、相談者さんが相談の最後に書いた「『主に私が働いているのだから、少しは家事をやって!』とは、彼のプライドを傷つけそうで言えません」という部分です。

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