家事は人が生活するうえで不可欠ですが、食洗機を買う、掃除の回数を減らす、中食を利用するといった工夫には限界があるため、妻が仕事に従事する以上は、不足分は夫が補う必要があります。家事代行サービスの利用も考えられますが、多くのご家庭では料金面から現実的な選択とは言えません。
話が難しいのは、日本の場合、フルタイムでも男性を100とした場合、女性は70しか稼ぐことができないという社会の構造的な問題があることです。具体的な数字に置き換えると、男性が30万円なら女性は21万円になります。これほど大きな開きがあると、フルタイムの共働きといえども、家事・育児を平等に分担するより、夫に多く働いてもらったほうがいいと多くのご家庭では判断するでしょう。
つまり、社会構造上の問題である男女の経済的な不平等が解決しなければ、基本的には、家庭内の平等な分担も進めることができないのです。にもかかわらず、あたかも社会構造を変えるのは無理でも、意識であれば簡単に変えられるかのような論調で、夫婦の意識の問題に焦点が当たることが少なくありません。だから、家事分担を取り扱ったウェブの記事では、コメント欄が「男が悪い/女が悪い」、「社会構造の問題だ/個人の意識の問題だ」と水掛け論に陥り、荒れてしまうのです。
稼がない夫が家事をしない「合理的理由」
さて、前振りが少し長くなってしまいましたが、こうした社会状況をふまえると、質問者さんのように妻のほうが収入が多い場合の家事分担の問題は、なかなか議論の俎上に上がりにくいことがわかります。同じような境遇で共感してくれる人があまりいないはずですが、相談者さんはそこにくよくよすることなく、さらには、夫の仕事にも理解を示し、経済的な負担を気にされていません。
そもそも相談者さんが十分に稼いでいるからこそ、夫は専門を活かした職に正規で就くという希望を追い続けることができているわけです。これだけ「恵まれた」環境にありながら、なぜ夫は家事をしないのか。疑問を持つのは当然だと言えます。
社会学者の筒井淳也先生は『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』の中で、妻に家事が偏る理由について、「『夫は外で仕事をしてお金を稼ぎ、妻は家庭のことをする』という性別分業的な考え方に対して肯定的な態度を持っているかどうかによって、家事分担が決まる」というイデオロギー仮説を紹介しています。
世の中の風潮としては、性別分業はもう古いとされています。しかし、いまだに女性が幼い子どもを保育園に預けて働くことに罪悪感を抱いたり、男性が低収入であることにコンプレックスを持ったりする背景には、「男は仕事、女は家庭」という価値観があるのです。
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