発達障害の僕が「うつの底」で体験した地獄 自己肯定感に「根拠」がある人は危ない

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自己肯定は無根拠であるに越したことはないのです。根拠のある自己肯定は、根拠が失われれば消え去ってしまう。

では、無根拠な自己肯定を手に入れる方法は何か。それは無根拠に他者の生を肯定することそのものだと思います。他者を肯定した分だけ、自分も肯定していいという考え方です。少なくとも、自分の生を無根拠に肯定するよりは他者の生を無根拠に肯定するほうが簡単です。

誰だって、友人が「俺には生きる価値がない」と言っていれば「そんなことはないし、価値なんかなくたって生きていていい」と言いたくなるでしょう。それを「利用」するのです。

他者を見下して笑った自分の人差し指は自分を突き刺す

自分が何かを(おカネを、あるいは社会的地位を)持っていることで他者を見下して自己肯定感を得ていた場合、それが失われたときには間違いなく自己肯定感を失います。

しかし、他者に対して「何もなくてもあなたは生きる価値がある。そこには根拠はいらない」と普段から主張していれば、それを自分に適用するのはそう難しいことではないでしょう。少なくとも、かつて他人を見下した自分の目に、他者を指差して笑った自分の人差し指に突き刺されることは防げます。

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他者を見下す無意識の目線は恐ろしいです。それを他人に向けているうちは問題ないですが、自分が「見下される」側になったとき、まるで槍のように降り注ぎます。人間がうつの底で異様に謙虚になってしまうあの現象も相まって、本当に危ない状態に陥ります。

もちろん、「自分は自己肯定の根拠を失うことはない。他者に対して自分が優越していることはモチベーションの源だ」という考え方も一理あります。人生が好調に推移しているとき、それは強力なエンジンになるでしょう。

しかし、自分が「すべてを失うこともありうる」と考えるならば、この考え方は採用しないほうがいいと思います。倫理的な問題ではまったくなく、リスク管理の問題として。

根拠ある肯定感は、根拠が消し飛べば一緒に消えてなくなります。具体的な自己肯定の根拠は助けになることもありますが、実を言えばリスクと隣り合わせです。あらゆるものは失われる可能性があるのですから。

借金玉 発達障害サラリーマン

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しゃっきんだま

1985年生まれ。診断はADHD(注意欠如・多動症)の発達障害者。幼少期から社会適応ができず、紆余曲折を経て早稲田大学を卒業後、金融機関に就職。まったく仕事ができず逃走した後、一発逆転を狙って起業。一時は調子に乗るも大失敗し、それから1年かけて「うつの底」を脱出。現在は営業マンとして働く。著書に『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』。
ブログ 「発達障害就労日誌」
ツイッター @syakkin_dama

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