一般の人たちでは、「今の低迷(デフレ基調)が続くと思う」と答えた人が4割を超えているのに対して、専門家の中では「経済の実態が着実に成長できる状況を回復できれば、物価も反転上昇すると思う」という回答が最も多く、4割弱を占めている。また、「今日の財政赤字や金融政策の状況等から、急速なインフレに転じている可能性が高いと思う」という回答は一般市民では5%に満たないが、専門家では15%程度もあって、「実質経済に大幅な拡大が望めなくても、インフレ期待を引き起こせれば、デフレ脱却は可能だと思う」という答えを上回っている。
このような違いは、20年という年月の間には日本経済の状態が変わって貨幣数量説や合理的期待形成説が主張しているようなメカニズムがまた働くようになるという可能性を高く見ている人たちが専門家の中には相当数いるからではないだろうか。
経済学では、ほかの条件が変われば、理論が復活
科学の世界では、対立する理論のどちらが正しいのかという問題は実験や観測によって決着がつく。しかし、経済学では理論は否定されるのではなく、誰も議論に使わなくなってすたれるが、ある日突然また生き返って頻繁に議論に登場するということが、昔から延々と繰り返されているように見える。
そもそも経済学ではということを筆者ごときが言うのはおこがましいが、自然科学の発展と経済学の進歩の仕方には大きな違いがあるようだ(Rodrik, Dani. Economics Rules: The Rights and Wrongs of the Dismal Science, W. W. Norton & Company. 〈2015〉、邦訳『エコノミクス・ルール』白水社、など参照されたい)。
経済学で使われるさまざまな「理論」あるいは「モデル」というものは、経済を動かしているさまざまなメカニズムの一つひとつを明示的に述べたものだ。経済活動は極めて複雑でさまざまなメカニズムが同時に働いているので、一つの理論で現実の経済の動きを完全に説明することはできない。経済を動かしているさまざまなメカニズムがしだいに明かされて、「理論」として知識のストックが積み重ねられてきた。
どのメカニズムが強く働くのかは、対象となる問題や経済の状況によって異なっており、日本経済においても、ある時期には強く働いていたメカニズムが、別の時期にはほとんど働かなくなるということが起こりうる。それまで働いていた貨幣数量説的なメカニズムが1990年代に入ってから現在までの日本経済ではあまり働かなくなったが、今後もずっとこの状態が続くとは限らない。
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