労働人口減少で、物価は上がる可能性がある 皮肉にも忘れた頃に「貨幣数量説」が働くのか

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日本の名目GDP(国内総生産)と、経済全体に供給されている貨幣量であるマネーストック(預金通貨など金融機関を通じて発行されるものを含む)、日銀が経済に供給しているおカネであるマネタリーベースの3つの関係を見てみると、1990年代半ばまでは名目GDPとマネーストックがほぼ同一に動いていたことがわかる。しかし、1990年代半ばから現在までは、マネーストックが2倍程度にまで増えたにもかかわらず、名目GDPはほぼ横ばいにとどまっている。現実には、貨幣(マネーストック)がこれだけ増えても、物価上昇率は高まっていないし、人々のインフレ期待もそれほど変わってはいない。名目GDPはマネーストックの動きにほとんど反応していないように見える。

貨幣数量説や合理的期待形成説はもうダメ?

3月に退任した前副総裁の岩田規久男氏は、インタビューで「長期国債を大量購入してマネーを供給すべきだとした副総裁就任前の主張は、その後の金融政策の理論と実証研究の進歩から判断すると単純すぎた」と述べたと報道されている(3月28日付、日本経済新聞)。異次元金融緩和の理論的支柱であった岩田前副総裁自ら誤りを認めた形となっているが、貨幣数量説も合理的期待形成説もまったく間違った説だと切って捨ててしまうのは大きな誤りであるし、経済政策が思わぬ方向に進みかねないことを考えると危険である。

貨幣数量説を完全に否定してしまうことは、「いくらマネーを供給してもインフレにならないのであれば、政府が発行する国債を日銀がいくら購入してもインフレを心配する必要はないのだから、政府はデフレから脱却するまで財政赤字を拡大させて景気刺激を続ければよい」という主張を勢いづけかねない。現実に、前述のインタビューの中で岩田前副総裁は「金融緩和はデフレ脱却の基盤だが、構造改革や財政出動も必要だ」と、財政赤字拡大の必要性にも言及している。

内閣府経済社会総合研究所が、2016年末から2017年春にかけて日本経済の分析を専門にしている経済学者や官民エコノミストなどの「専門家」と「一般市民」とに対して行ったアンケート調査によると、デフレ脱却の可能性について、専門家と一般市民とはかなり違う見方をしているようだ。

今後10~20年程度の期間の日本経済について物価動向の展望を尋ねた質問では、物価が上昇する可能性を、専門家のほうが一般人よりも高く見ていることが明らかだ。

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