性善説も性悪説も、われわれの本能に刻まれている。人間は動物であるから、もちろん個体レベルで自らと子孫の維持を図る本能がある。これ一点張りで行けば、性悪説に行き着く。
ところがまた、人は優れて社会的な生物であり、かつ集団に対する自然選択をくぐって生き残っているため、集団の生存を最適化するための性善説の本能も持ち合わせている。性善、性悪両者の強弱は、人の価値観の多様性の一面をなしている。
仲間として、ともに発展すべき相手に対しては、性善説に基づき、信頼関係でことを進め、敵対者には、性悪説で対峙し、持てる優位を最大限に生かし少しでも有利な立場を目指すことが効率的である。性善説に依ることと、性悪説に立つことの、どちらかが優れていてどちらかが劣っているというものではない。
自然な交渉術だが、それが好手になる保証はない
トランプはビジネスマンであるが、中でも典型的なディール・ガイである。彼の問題の1つは、同盟国に対してもゼロサムゲームのディールを仕掛けることにあり、これが、特に経済学や歴史の素養を持つ者には不安をもたらしてしまう。
しかし、すべてのことに表と裏がある。話が敵対国との交渉になった場合、ゲームのルールは同盟国の場合とまったく違う。悪意の相手には、性悪説で臨むのが、一定の利益につながることは否定できない。バラク・オバマ前米大統領は性善説の人として信頼できる人物であったが、世界の交渉相手は一様ではない。状況によっては、日ごろ感心しない態度の信頼できない人間が適材になることもある。
米朝交渉が決裂すれば、わが国にとって、脅威の増大になる。トランプのこの書簡は、ディール・ガイとしてはごく自然な交渉術であるが、北朝鮮との交渉はつねに不確実性が高く、自然な一手が好手になる保証などない。注意深く進展を見守っていく必要があるだろう。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら