同盟国に対する敵対的な交渉は世の批判を招くとして、もともと敵対する国に対してはどうか。
戦略的忍耐が、北朝鮮に対し効果を上げなかったことは、認めざるをえない。米朝首脳会談の実現は今は不透明であるが、いったん可能性が高まったことは、批判と恫喝(どうかつ)を交えたトランプ流交渉術が、敵対国に対し有効であった可能性を強く示唆する。
その認識に立つ者からすれば、北朝鮮が得意の瀬戸際外交のしぐさを見せたこのタイミングで、その横面を張る手紙を出すのは、自然な交渉術であるかもしれない。
さて話題が若干それるのをご容赦いただき、ビジネスの世界に目を転じてみたい。
ディールには性悪説、オペレーションには性善説
企業買収または合併、いわゆるM&Aビジネスには、大きく2つのステージがある。最初はディール、相手方との株の売買である。
ディールは、「相手が売りこちらが買う」相対の取引で、基本的にゼロサムゲームである。こちらが得をするためには、その分相手に損をしてもらうしかない。しかも取引が終われば、相手と縁が切れる。このステージで必要なのは、性悪説に立っての行動である。見知らぬ相手とのディールでは、「性善説に立ち信じて疑わず、打たれれば左の頬を差し出す」というスタンスが適合しないのは自明である。
ディールが終われば、PMI(Post Merger Integration、統合作業)、次いで新会社でのオペレーションに事が進む。事業が始まったら、ゲームのルールはもはやゼロサムではない。関係者が協力することで、全体の利益を最大化することが本質となる。これを、上記と同じ性悪説でやってはうまくゆかない。オペレーションでは、ガバナンス上必要なチェックは残しつつ、性善説による信頼によって関係者の協力を構築するのが要諦である。それによって1+1を3にも5にもして、ノン・ゼロサムの実現を図る。
標語的にわかりやすく言えば、「ディール・ガイ」には性悪説の人材が、「オペレーション・ガイ」には性善説の人材が適する。
両者の価値観は根本的に違うので、両方を兼ね備えるのは、相撲とマラソンの両方に強い人材を求めるように難しい。前者は、裏切り裏切られるのは世の習いと思っており、後者は、信頼を重んじ、相手の利益を図るのがビジネスの本質と考える。どちらを得意とするか、この性質は人が持って生まれたものと理解すべきであろう。この人材配置を逆にしてしまうと、かなりまずい。
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