星野氏が「ビジネス客を忘れる」と語る理由 新ブランド「OMO」は従来とは違う立地で戦う

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旭川グランドホテルは、2000年代に入って日本製紙グループ本社から大和証券系のファンドに譲渡され、運営会社も様々に入れ替わるなど、経営が目まぐるしく変わった。そして2016年3月に星野リゾートが買収。星野リゾートは、自社がスポンサーを務める不動産投資法人の星野リゾートリート投資法人に土地と建物を売却したうえで、2017年4月から運営を受託している。

旭川市の最大の観光資源は旭山動物園。動物本来の生態を見せる行動展示で人気だ。入園者は2007年度の307万人をピークに、ブームが一巡したことで2017年度は142万人と半分以下に縮小している。

とはいえ、旭川市が公表している「観光客入込状況」によれば、市内の宿泊者数はインバウンドが牽引する形で、延べ宿泊者数はこの10年で過去最高となっている。

実際、リートの開示資料によれば、旭川グランドホテルの売上高は約25億円、6~9月の稼働率は90%を超えるが、11~1月は60%前後と厳しい。星野リゾートがリニューアルした後も、客室価格は1万円程度で据え置かれているため、どちらももう少し引き上げる余地が残されている。

動物園だけでなく、病院もある

実は旭川には豊富なビジネス需要が存在する。市内には、旭川医科大学を筆頭に、旭川厚生病院、旭川赤十字病院、国立の旭川医療センターのほか、総合病院や中小の病院が数多くある。

そのため、宴会場やレストランなどは医療関係者の利用が多いという。数年前まで旭川市の医療施設に勤めていた男性は「医療関連の宴会などは、まず旭川グランドホテルというのが当たり前だった」と振り返る。

実際、地元の関係者を招き、現地で行った開業イベントには医療関係者の姿も目立った。

会見の中で星野氏は「観光客のテンションを上げるホテルだ」と説明しながらも、会議や宴会などはこれまで通り実施し、音響機器や遠隔会議システムなど刷新し、より「カッコいい会議ができるようにする」(同)という意向を示している。

こうした地域性もあり、経営方針を完全には観光客に振り切れなかった姿も透ける。OMO7の関係者は「(星野)代表は『ビジネス客を忘れる』といっているが、(ビジネス客は)『きっと戻ってきてくれる』とも言っている」と複雑な顔で打ち明ける。

星野氏は「OMOの成功の指標は収益性にある。OMOコンセプトで運営されているホテルが、ほかのホテルより高い収益性を取り、再投資にまわるような利益率を出せるかが大事だ」と語った(写真:2017年4月、風間仁一郎撮影)

旭川の開業会見で、星野氏は「グランドホテルのビジネスモデルを変えられるのか。全国のホテル業界関係者、(不動産)投資家から、この旭川は注目されています」と強調。「目標どおりの顧客満足度、成長を目指すことで、次の世代のグランドホテルのあり方を模索していきたい」と宣言した。

不動産投資という側面から考えれば、こうした旭川も大塚も、域内では一等地だが、いわゆる札幌や池袋の駅前というような超一等地ではない。それでも、超一等地と同じような収益をあげることができれば「投資家から運営案件をいただけるチャンスが増える」(星野氏)。

そして、もし旭川の大成功を収めれば、星野氏が言う通り「地方のグランドホテル」の未来を大きく変える可能性を秘めている、とも言える。

これまで星野氏は破綻した地方のリゾートの再建で豊富な実績を誇る。都市部でもその手腕は発揮されるのか。旭川、大塚の両輪戦略が試されている。

松浦 大 東洋経済 記者

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まつうら ひろし / Hiroshi Matsuura

明治大学、同大学院を経て、2009年に入社。記者としてはいろいろ担当して、今はソフトウェアやサイバーセキュリティなどを担当(多分)。編集は『業界地図』がメイン。妻と娘、息子、オウムと暮らす。2020年に育休を約8カ月取った。

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