何でも速い「加速の時代」は2007年に始まった 加速化の原動力となっている3つのこと

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こうした加速の時代に対処するために、世界中でさまざまな取り組みが生まれている。本書でフリードマンは膨大な数の専門家から話を聴いているが、いつもながらそうした足で集めたエピソードの数々は実に面白い。

たとえばあのビル・ゲイツが熱く語るのは、ニワトリについてだ。ニワトリは世話がしやすく、簡単に増やすことができる。アフリカで極貧とされるのは年収700ドル以下だが、増えたニワトリを売れば年に1000ドル以上稼げ、これによって世話をする女性たちの力も強まるという。ゲイツ財団では現在、サハラ砂漠以南でワクチンを投与した改良品種のニワトリを飼う世帯を増やそうと取り組んでいる。

最高の解決策の多くが、ダウンロードできないもの

意外なことに、加速の時代への対応策としてフリードマンが持ち出すのは、自らのルーツだ。彼の故郷は、ミネソタ州ミネアポリス郊外のセントルイスパークという街。人口4万5000人ほどのいわゆるスモールタウンである。19世紀に新興国アメリカを視察したフランスの青年貴族トクヴィルが、スモールタウンこそがアメリカの民主主義の基盤だと述べたことを思い出す。

フリードマンが子どもだった頃、この街ではミドルクラスになることがひとつの到達点だったという。彼は自らを「社会的にはリベラルで、心底から愛国者で、多元的共存を信奉し、コミュニティを重視し、財政では穏健派で、自由貿易を支持し、イノベーションにこだわる環境保護主義・資本主義者」と規定しているが、かつてはこうした「良識あるミドルクラス」によってコミュニティが支えられていた。

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世界が密接につながるようになった一方、リスクもまた一挙に破局的に拡がるようになった。山積する問題に対処するためには、あらゆる分野でイノベーションが必要だが、それは「持続する協力と信頼があることころでしか成立しない」というのがフリードマンの考えだ。そしてそうした協力や信頼は、健全なミドルクラスがいるコミュニティでこそ育まれる。

「冷静な立場から見て私が非常に驚いたのは、加速の時代に人々がレジリエンスを備え、躍進するのを手助けする最高の解決策の多くが、ダウンロードできず、昔ながらのやり方で1人の人間から別の人間へ、1回ずつアップロードしなければならないということだった」

フリードマンは、「ほどほどの人生」が望みづらくなった時代だからこそ、立ち止まって考えよう、と訴える。そのためなら、遅刻してもかまわないではないか、と。このアナログなメッセージを、あなたはどう受け止めるだろうか?

首藤 淳哉 HONZ
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