「まずは君が落ち着け」世界は逆回転を始めた 不動産王の「壁作り」はなぜ支持されたのか
アンチ・グローバリズム
あちこちに書いたので、同じことの繰り返しになるんですけれど、歴史的な大きな文脈としてはイギリスのEU離脱、ヨーロッパ各国の極右勢力の伸長と同じ政治史的文脈の中に位置づけられる出来事だと思います。ただ、トランプのケースで際立つのは、「アンチ・グローバリズム」がアメリカで大衆的な人気を得たという点です。
この四半世紀、経済のグローバル化が急激に進行しました。それによって、従来の国民国家の枠組みが破壊された。ボーダーコントロールがなくなり、言語も通貨も度量衡も統一され、障壁がなくなってフラット化した世界市場を超高速で資本・商品・情報・ヒトが往来することになった。壊れたのは経済障壁だけじゃありません。それぞれの国民国家が自分たちの帰属する集団に対して抱いていた民族的アイデンティティーも破壊された。
グローバル化はそれ以外には経済成長の手立てがなくなったためにやむなく選ばれた道なんで、グローバル化の果てに何が起きるかについて見通しがあったわけじゃない。グローバル化しないと当期の売り上げが立たないという目先の損得で突っ走ってきただけです。
でも、経済成長の条件がない環境の下で、無理強いに経済活動を加速してきたわけですから、いずれ限度を超える。現在の株取引は人間ではなく、アルゴリズムが1000分の1秒単位で行っています。金融経済については、もう変化のスピードが生物の受認限界を超えています。自分たちが何をしているのか、プレイヤー自身がもうわからなくなってしまった。
昨日たまたま『マネーモンスター』というジョージ・クルーニー主演の映画を借りて観ていたんですけれども、株売買のアルゴリズムが暴走して、一夜にしてある企業の株価が暴落して、多くの投資家が大損害したというところから話が始まる。企業の広報担当がメディアに責め立てられるんだけれど、「どうしてかわかりません。機械が勝手に暴走しちゃったんですから」と言う他ない。誰も説明できない、誰も責任をとらない。
暴落で全財産を失った若者が怒りの持って行き場がないので、この株を勧めたテレビの投資番組のキャスターに銃を突き付けて「いったい何が起きているのか、教えろ」と脅迫する……という話です。映画自体はどうということないんですけれど、株式市場における株価の乱高下には「人間的意味がない」というアメリカ市民の実感をよく映し出していました。