「まずは君が落ち着け」世界は逆回転を始めた 不動産王の「壁作り」はなぜ支持されたのか

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「民主主義ってなんだ」というのがSEALDsの立てた問いでしたけれど、安倍政権はまさに民主的な手続きを経て誕生した政権です。強行採決だって多数決という民主主義のルールに準拠して行われている。法理的には彼らはみごとに民主主義的にふるまっている。

でも、何か違う。民主主義的というのはほんとうは「そういうこと」じゃないだろうと国民の多くが感じていた。でも、それは政治思想としては言葉にならなかった。リベラル・左派の人たちは「民主主義を破壊するな」と言っていましたけれど、安倍晋三は民主主義を破壊なんかしていません。それを巧妙に活用しているだけです。彼ほど民主主義の恩恵をこうむり、その操縦に長けた政治家はいない。

だから、彼に向かって「民主主義的にふるまえ」と言っても無駄なんです。「じゃあ、もっとやるぜ」と言うだけですから。そうじゃなくて、僕たちがうんざりしていたのは、その「スピードへの固執」に対してなんです。

なぜ穏やかなふるまいができないのか

なぜ、こんなに急いで次々と重要な国策を決定しなければいけないのか。なぜ議論をしないのか。なぜ「国権の最高機関」での審議を「時間つぶしのセレモニー」だと感じるのか。それは今の与党政治家たちも官僚もビジネスマンも「グローバル化に最高速で最適化する」ことが絶対善であると心の底から信じ切っているからです。

問題は制度そのものにではなく、それを運用するときの「ふるまい」にある。なぜもう少しじっくり時間をかけて、ことの適否について衆知を集めて吟味し、世界の動きをよく観察し、適切な政策的解を一つ一つ決定するという穏やかなふるまい方ができないのか。なぜ「バスに乗り遅れるな」と喚き立て、その「バス」がいったいどこに向かうものかを問題にしないのか。それは安保法案のときも、TPPのときも日本国民みんながひそかに感じていたことだと思います。

その「バス」はいったいどこに向かうのか?(イラスト: しりあがり寿)
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