ゼロックス買収を阻む「物言う株主」の高い壁 富士フイルムが狙う実質ゼロ円買収の行方は

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しかしその後、2社合弁の富士ゼロックスでの不正会計問題などを受け、現金を使わない買収計画が浮上。それに対し、取締役会の一部のメンバーが富士フイルムHDとの交渉役だったジェイコブソンCEOの交代を検討するなど、二転三転した。結局、ゼロックス取締役会は1月末、アイカーン氏らと対立したまま、現在の買収計画を受け入れた経緯がある。

裁判所は9月に上訴審の審理を行うことを決定。富士フイルムHDとゼロックスは当初、今年7~9月に買収手続きを完了させる計画だったが、当面は手続きを進められなくなった。

1株40ドルをめぐる攻防

買収に反対するアイカーン氏らは「ゼロックスへの評価が低すぎる」と訴え続けている。5月7日には、株主宛ての書簡で「ゼロックス株1株当たり40ドル以上を提示すれば検討に値する」と、買収に応じる具体的な条件を初めて提示した。

ゼロックスの買収発表時の株価30ドルを基準とした場合、富士フイルムHDの案ではプレミアムが20%、アイカーン氏らの案では33%程度になる。

海外のM&A(企業の合併・買収)に詳しい服部暢達・早稲田大学大学院客員教授は、「米国の過去10年程度の買収プレミアムは平均約40%なので、今回の要求は十分妥当な範囲」と話す。

富士フイルムHDは、グループから現金流出がない現在の買収計画を進められるか、古森重隆会長の手腕が問われる(撮影:尾形文繁)

ゼロックスは9日、全株主に書簡を送り、富士フイルムHDとの間で、株主にとって「よりよい条件」を求め、買収条件の再交渉を行う方針を明らかにした。

富士フイルムHDは「新たな提案があった場合には、当社の株主にとってもメリットがあるか検証が必要」と説明するが、同社幹部は「(買収で)現金を払うつもりはない」と明言しており、強気の姿勢を崩していない。

ボールを投げられた形の富士フイルムHD。現金を伴わない“クリエーティブ”な買収計画を貫けるか。

 

【5月14日10:00追記】ゼロックスは5月13日(米国時間)、富士フイルムによる買収契約を破棄し、アイカーン氏らと新たな合意に達したとの声明を発表した。富士フイルムが4月15日までに富士ゼロックスの財務報告書を提出しなかったことなどを理由に挙げている。ジェイコブソンCEOは退任、アイカーン氏らが提案する5人の取締役の就任を受け入れるという。

遠山 綾乃 東洋経済 記者

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とおやま あやの / Ayano Toyama

東京外国語大学フランス語専攻卒。在学中に仏ボルドー政治学院へ留学。精密機器、電子部品、医療機器、コンビニ、外食業界を経て、ベアリングなど機械業界を担当。趣味はミュージカル観劇。

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