アルコール依存症は治らないといわれている。それは、一度アルコール依存症としての飲酒の仕方を覚えた人は、長期間断酒をした後でもいったん飲んでしまうと一気に飲酒量が増えて元の状態に戻ってしまうことが多いからだ。
しかし、アルコール依存症は治すことはできなくても、克服することはできる。アルコール依存を克服するためには、本人が断酒に向けて努力しようとする意思だけではなく、周囲の人の支援や協力、医療者の関与も必要となる。そして、本人が社会との関係性を理解することが最終目標となるだろう。
アルコール健康障害対策基本法の成立
アルコールが関与した死亡者数はわが国で1年間に3万5000人であり、アルコールによる社会的損失は、2008年の時点で約4兆1500億円(医療費が1兆300億円、生産性低下が3兆1000億円)とも試算され膨大である(鳥取大学医学部の尾崎米厚教授の調査による)。
飲酒の問題はこれ程大きな問題でありながら、医療においても行政においても見逃され、放置されがちであった。2013年12月になってようやくアルコール健康障害対策基本法が成立し、2014年6月に施行となった。わが国においても、アルコールによる心と身体の問題が国をあげて取り組む基盤ができたことになる。
アルコールは身体や心に悪いだけではなく、適量ならば健康によい面があること、社会におけるコミュニケーションの促進剤となることなど良い面も少なくない。何よりも食事を美味しく楽しむための重要な材料の一つでもある。
文化人類学者の梅棹忠夫氏が「それまでに酒のなかった民族ではそこにアルコールが入ってくると一気にアルコール依存症が増えてしまう。しかし、酒が古くからある社会ではアルコール依存症が極端に増えることはなかった」と講演会で話されたことがあった。
アルコールは工業化とともに誰にでも安く容易に手に入るようになった。そのような環境の変化とともにアルコール依存症が増えてきた面もある。アルコールの負の面を少しでも減らし、良い面をうまく生かすことがこれからの社会に要求されているのだ。
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