日本人を不幸にする「会社員至上」の生き方 橘玲×湯山玲子「人間いつかはフリーになる」

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湯山:その前に必ずつくのが“怖い”という言葉。とにかく日本人のあの恐怖心や不安は何なんだろう。恐怖というものは無知から来ることなので、まずは組織で給料をもらっての正社員以外の働き方の多様性と可能性を知らない。私とて、自立した上での意志的で自由な生き方のすばらしい実例は、30代で仕事を通じて知り合った、海外の人々からですもの。実家は作曲家なので自立していましたが、そういう立場を堪能できるのは、飛び抜けた才能ありき、というのが日本の空気です。

橘 玲(たちばな あきら)/作家。1959年生まれ。2002年国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部を超えるベストセラー、『言ってはいけない 残酷過ぎる真実』(新潮新書)が47万部を超え新書大賞2017に。ほかに『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』、『(日本人)』(ともに幻冬舎)『「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する』(筑摩書房)、『幸福の「資本」論』(ダイヤモンド社)など著書多数(撮影:七咲友梨)

:“働く=会社に通う”って思い込んでるんですね。専業主婦になるのも、会社を辞めてもフリーで働けばいいという発想がないから。会社や家庭に閉じ込められてるんです。

湯山:本当ですよね。私たちの学生時代はいろんな考え方のヘンテコなヤツというのを見てたんだけど、今はそういう実例がないから怖いんでしょうね。あとは親。今は親が心配するあまりに子どもの芽を摘んでいきますよね。学生がひとりで海外旅行に出掛けるのも大変だったり、普段から親にずーっと携帯で連絡しなきゃいけなかったり。自分の生き方を考える以前に、親の望む生き方しか選択肢がないように思われます。

:専業主婦って、“家事を専業にする人”じゃなくて“子育てを専業にする人”なんです。だから子育てに失敗できない。それがものすごいプレッシャーになっている。でも、子育てってどうにもならない部分があるじゃないですか。みんながみんな成功できるわけじゃないのに、専業主婦への子育て圧力がすごい。「親が努力すれば子どもは東大に入れる」というのは、ものすごく残酷なイデオロギーだと思います。

会社だって国家だって、楽しく生きるための単なる道具

湯山:私も女の人たちに「悩む暇があったら、とっとと外に出て交流したほうがキモチいいよ!」ってメッセージを送ってるんですけど、日本人って悩みという苦しみを居心地として楽しんでしまうような快感回路をつくりがち。外国の友人に話すと「おかしいでしょ」って言われるのに、マゾヒスト的な快楽がすごく強くて、とっとと辞めて逃げて、次の可能性を追求するってことができない。

:日本は“置かれた場所で咲きなさい”なんですね。オーストラリアの若い友人に、ひとつの会社で定年まで働いて退職金をもらうのがサラリーマンの理想だと話したら、「“scary”(おぞましい)」と言われましたから(笑)。発想が全然違う。

日本は(会社に滅私奉公する)サラリーマンの夫と(子育てに全責任を負う)専業主婦が「正しい家庭」という縛りが強すぎて、それが日本人を不幸にしています。サラリーマンにとって仕事は苦役で、専業主婦にとって子育ては失敗が許されないプロジェクト。それが“人生100年”と言われるようになって、60歳で夫が定年退職したら、その後の40年間をどうやって生きていくのかと問われて思考停止。不安が大きいのに、自分から動こうとしないのは不思議ですよね。

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